The Daughter from California Syndromeという概念があります.皆さんはこの疾患名を聞いて,どのような疾患を想像しますか?
病院は全員が元気になる場所ではありません.岡山大学病院高度救命救急センターにも,高齢や悪性腫瘍や慢性疾患の末期,心筋梗塞や脳卒中で回復が見込まれない患者さんが来ることも少なくありません.そういう場合には,患者さんのご家族,患者本人に予後不良である旨を説明し,医療チームとくり返し話し合いをする過程で,人生の終末期に過度な医療が行われることを避け,穏やかに最期のときを迎えることを提案することがあります.この過程を,終末期医療におけるACP(Advance Care Planning)といい,研修医の先生に必ず知っておいていただきたい言葉です.
こうやって,何度も話し合いをして決めた方針があるにもかかわらず,遠方に住む娘(あるいは息子)が突然やって来て,医者に会わせろ,説明しろ,と要求し,終末期の方針が覆り,せっかくこれまで築いてきた計画が台無しになってしまうこと,これをThe Daughter from California Syndromeと呼ぶのです1,2).これまでほとんど世話をしてこなかったことへの罪悪感かもしれませんし,実の子どもなら親にいつまでも生きていてほしいという気持ちは理解できます.しかし,近くに住む家族が時間をかけて主治医と決めた方針が,遠くに住む家族の一言でがらっと変わり,生命維持装置が装着され,いわゆる延命治療が延々と行われるのは残念な気がします.これは日常の臨床でもよくあることです.
今後20年は高齢者の救急搬送は増加し続けるだろうと予想されていて,救急医療のありかたも変わっていかなければいけません.老人保健施設などから“延命治療を望まない”と意思表示をしている患者さんが心肺停止で運ばれて来ることもあるでしょう.日本臨床救急医学会は「人生の最終段階にある傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方に関する提言」を出しています.これによると,救急隊が“心肺蘇生を中止してもよい”との具体的指示をかかりつけ医から直接確認できれば心肺蘇生等を中止することができる,とあります.もちろん,心肺蘇生等を希望していないのであれば救急要請をしないのが理想的なのですが,カリフォルニア娘が出てきた場合,それを無視できず,今後も大きくのしかかってくる問題です.
ちなみに,カリフォルニアの医師たちはこの状態をどのように呼ぶかというと,The Daughter from Chicago Syndrome(シカゴから来た娘症候群)なのだそうです.