何でも食べ過ぎはよくないですが,秋の味覚であるぎんなんの食べ過ぎはしばしば問題になります.以前,ある病院で救急当番を手伝っていたとき,特に既往がない男性が急に痙攣を起こして搬送されてきました.
痙攣は一過性ですぐに治まったそうですが,最近仕事を辞めお酒ばかり飲んでおり,栄養のバランスもよくなかったようです.血液やMRIなどの検査をしても大きな異常はなく,酒に酔っていたので入院してもらいましたが,後で聞くと「おつまみにぎんなんを炒って塩を付けて食べていた」とのことでした.
秋になると,イチョウ並木の下にはぎんなんが落ちて悪臭が漂いますが,エメラルドグリーンのぎんなんは大変美味です.ぎんなん中毒は1708年に書かれた貝原益軒(江戸時代の儒学者)の書物にも書かれており古くから知られていましたが,中毒物質がわかったのは1980年代後半で,ぎんなんに多く含まれるアンチビタミンB6である4’-O-methylpyridoxine(4’-MPN,メチルピリドキシン)が原因であるといわれています1).
ビタミンB6はグルタミン酸から抑制性神経伝達物質であるGABAができるときに補酵素として働きます.ところが,この患者さんはお酒ばかり飲んでビタミン不足であったうえに,4’-MPNがぎんなんによって過剰になり,ビタミンB6の作用が阻害されたためGABAの合成ができなくなり,痙攣を起こしたものと思われます.あとから測定したビタミンの値は正常下限よりもかなり低く,ビタミン剤を点滴して治療が行われました.
4’-MPNを測定するのは難しく,この患者さんがぎんなん中毒であると断定することはできないのですが,患者さんによると「枝豆と似ているしビールにすごくあうから好んで食べていたが,この日はお茶碗に山盛りくらいのかなり多くの量を食べた」とのことでした.4’-MPNは熱に対して安定なので,茶わん蒸しに入れても焼きぎんなんにしても失活しません.
ちなみに,いくつ食べたら中毒になるか,という問題はまだわかっていませんが,報告例のほとんどは小児です.死亡例には15粒から574粒の報告があり,中毒量は小児で7~150粒,成人であれば40~300粒程度であるといわれています2,3).ぎんなんの塩炒り40粒くらいなら,お酒のつまみとかで出てきたら普通に食べてしまいそうですが,枝豆やピスタチオ感覚では危ないようです.