最近,加熱式タバコを吸う人をよく見かけます.実際に加熱式タバコで最大のシェアをもつIQOS(アイコス:加熱式タバコの一製品)の利用者は,2016年で喫煙者全体の0.6%でしたが,2017年では3.6%と急増しています1).
2018年7月に健康増進法の一部を改正する法律が成立し,受動喫煙対策が強化されました.これにより,たくさんの人が集まる施設での喫煙が規制されます.加熱式タバコも規制されますが,煙や臭いが少なく周囲に迷惑をかけない,体への影響が少ないことを理由に,タバコが禁止されているレストランでも,加熱式タバコ専用の喫煙室(飲食等も可)をつくれば使用できるなど,通常のタバコに比べてやや規制が緩くなっています.それでは,本当に加熱式タバコの毒性は少ないのでしょうか.
加熱式タバコはこれまでのタバコと同じように葉タバコを使います.燃焼させるのではなく,電気的に350℃程度に熱して,ニコチン等の化学物質を熱分解により生じさせます.しかしその量は,これまでのタバコと比べて少なく,ニコチンは84%であり,有害物質といわれているアルデヒド類も20〜70%でした2).受動喫煙の影響も調査されており,同じ量で比較すると,室内のニコチン濃度は加熱式タバコの方が低かったと報告されています3).
これらの研究結果だけをみると,加熱式タバコの毒性は少ないように思われます.しかし,タバコに精通した研究者は,「有害物質の量が少なければ毒性が少ないという法則は,タバコにおいては成り立たない」と言っています.かつて低ニコチン・低タールのタバコは体にやさしいと言われていましたが,結局,肺癌や肺気腫のリスクは低下しませんでした.その理由には,1本あたりのニコチンやタールの量を少なくしても,タバコに依存している体は自然と喫煙本数を増やすからだと言われています.そして,この現象は加熱式タバコでも起こり得ます.それに加えて,煙や臭いが少ない加熱式タバコは空気を汚していないように見えますが,実際はニコチンや化学物質が発生しています.よって,煙や臭いに気づいて受動喫煙を避けることが難しく,気づかないうちに曝露される可能性が指摘されています.
結局のところ,加熱式タバコの毒性の高さや影響はまだわかっていません.それを科学的に証明するには,喫煙者(また,受動喫煙を受けた方)の健康被害の調査が必要となります.健康への影響は長い時間をかけて進んでいくので,その結果がわかるのは数十年後です.現時点で,毒性が「低そう」なので規制を緩めてもいいのか,「高いかもしれない」ので通常のタバコと同じように規制すべきか.私たちは,科学的な調査結果の前に選択しなければならないわけです.