毎年お正月になると,餅をのどに詰まらせた高齢者の死亡例が報告されます.私も何人も餅を詰まらせて心肺停止になった患者さんを診たことがあります.今回はお正月を控え,餅は意外と危ないものだというお話をしたいと思います.
大阪大学を中心に行われた研究で,2005〜2012年の8年間に大阪府で起きた餅による窒息が原因の院外心肺停止を検討したものがあります.この期間に46,911人の院外心肺停止症例が発生し,その約7%(3,294人)が窒息が原因であり,さらに3,294人のうち約10%の314人が餅をのどに詰まらせたことが原因でした.窒息の1割は餅が原因であるとは驚くべきことです1).餅による窒息の25%は正月三が日に起きており,冬に多いという季節性が明らかにあることがわかります.私は市民などにBLS講習会を行うときには,必ずハイムリッヒ法を含めた窒息の解除法を教えることにしているのですが,餅にどれほど有効かはわかりません.ただ,食べものによる窒息では7割が咽頭・喉頭にひっかかっているため,救急隊が到着して管子で除去することによって,社会復帰率が何もしない群では4.3%であったのに対して16.4%に上昇したと報告されています2).餅が原因の心肺停止では72%が心拍再開しますが,神経学的に予後良好で社会復帰する人は4%前後です.これは原因が餅でも餅以外でもあまり変わらず,窒息から10分を境に予後が決まると言われています.バイスタンダーが救急隊到着前に適切な方法で異物を除去するのは望ましいことですが,その間は胸骨圧迫が中断されてしまう恐れがあるので,推奨はされません.やはり餅は小さく切って食べるなどの指導が必要なのでしょう.
なお,餅は腸閉塞の原因にもなります.餅はCTで内部構造が均一でやや高輝度の特徴的な画像なのですぐわかります.研修医の先生も,日本で臨床をやる限りはこの画像は知っておいてください.餅はでんぷんですから,命の危険がないようなら急いで手術しないで待機していれば通過することが多く,腸閉塞の原因が餅であることを疑ってかかることが必要です3).
ちなみに,アメリカにいたときに餅のことを何と言ったらいいのかわからず苦労した思い出がありますが,英語ではRice Cakeと言います.