救急をやっていると,検査データは落ち着いているのに,なんとなく不穏な雰囲気を醸し出す患者さんに出会うことがあります.「この患者さん,なんかやばいんやない?」と感じたことのある人はいるかと思います.そういった第六感のことを「Gut Feeling」と言います.「腸で感じる」とは,非常にうまい表現だと思いますが,これは欧米の臨床では実際によく使われる言葉です.最近はエビデンスに基づくアセスメントが強調され,第六感などと言っていると若い先生に馬鹿にされますが,そんなことはない,という研究をご紹介します.
ベルギーの小児病院で,3,890名の小児患者さんを分析し,Gut Feelingがあった患者さんとなかった患者さんで,本当に後に重症感染症とわかった患者さんがどれくらいいたのかを調べています.この研究でのGut Feelingの定義は,直感的に「何かおかしい」と感じることで,それは身体所見や既往歴,各種検査所見に基づかず,理由がない判断のこととしています.初診で臨床的に軽症と診断した後に実際は重症感染症であった症例が6人いて,そのうちの2人はGut Feelingがあり,統計学的にも意味があることが報告されています1).
また,ドイツで66人の重症患者さんを対象に調べたところ,ICUでよく使うAPACHEⅡやSOFAなどのスコアとGut Feelingは,ほぼ同じレベルで死亡率と相関しており,看護師が感じるGut Feeling よりも医師のGut Feelingの方が精度が高かったそうです2).外科医の第六感も検証されていて,消化器外科医が術前にGut Feelingで予測した合併症率や死亡率などの予後は,消化器外科でよく使われるPOSSUMスコアと同等であったと報告されています3).
このように,Gut Feelingは信用できる指標であるかもしれないことがいくつかの研究で示されており,第六感も馬鹿にできないことがわかりました.私が研修医のときに指導医が「この患者さんは癌がある顔だから調べておけ」と言われて,内視鏡をしたら本当に癌があって驚いたことがあります.
ちなみに,善い人か悪い人かどうかも第六感でわかることがありますが,私はその能力が低いようで,いつも医局の先生たちにしかられています.