低血糖は実にさまざまな症状を呈するので,われわれ救急医はとにかく少しでも意識がおかしい患者さんには,必ず血糖測定をすることが鉄則になっています.今回は皆さんがよくご存知の意外なものが,実は低血糖の原因になっていたことをご紹介します.
2012年頃,急性咽頭炎や中耳炎と診断された乳幼児が,その後「原因不明の低血糖」を起こすことが頻発しました.原因を調べてみると,低血糖は第3世代セフェムやカルバペネム系の抗菌薬を投与したときに起きており,注意喚起がなされました1).
これらの抗菌薬には,腸管からの吸収を促進する目的でピボキシル基が結合されていて,吸収の際に加水分解されてピバリン酸となります.ピバリン酸は体内でカルニチンと結合し,最終的には尿に排出され,これによって体内のカルニチンが欠乏した状態になります.このカルニチンは,脂肪酸を代謝しエネルギーに変える際に必要不可欠な体内物質なので,欠乏状態になると低血糖を引き起こすといわれています.
6カ月間,抗菌薬を投与され,その間に何度も低血糖に伴うけいれんや意識障害をくり返していた18カ月の赤ちゃんにカルニチンを投与したところ,これらの症状は消失したと報告されています2).また,短期間の抗菌薬投与であっても,低血糖のリスクを有意に上昇させることがわかっていて,抗菌薬投与の翌日に低血糖を起こした例もあります3).
カルニチンの大部分は食事などから摂取する必要があります.特に赤身の肉類や乳製品はカルニチンが豊富なのですが,肉類をあまり食べない乳幼児ではもともとの血中カルニチンが低いので,カルニチン欠乏症を起こしやすくなります.
抗菌薬の副作用は意外と多く,低血糖だけでも複数の機序での報告があり,ここで示したのはほんの氷山の一角でしかありません.よかれと思って処方した抗菌薬で副作用・後遺症を招いてしまうのは本意ではないですし,抗菌薬の適応はよく考えなければいけませんね.ちなみに“しじみパワー”でおなじみのオルニチンは全くの別物です.