高層マンションの最上階に住む夢をもっている人は,視野が広く,さまざまな面で成功を収めることが多いと占いの本に書いてありました.確かに高層マンションの最上階で暮らしている人は,お金持ちで優雅にみえます.
高層階に住むことがよいのか悪いのかは,世界中で多くの研究がなされています.低層階では騒音や排気ガスが多く,高層階では日常的に階段を使って適度な運動をするため高いフロアに住む人の方が健康であるという説があります.一方で,高層階の人は自然とのふれあいが乏しく不健康である,落下したら致命的である,などという否定的な報告もあります1,2).国や地域によって高層マンションの質や人々の生活は異なりますし,高いところに住むことの是非を決めるのは難しいでしょう.しかし,心肺停止になった場合には,残念ながら高層階の方が低層階よりも救命率が低いことが証明されています.
カナダのトロントで18歳以上の院外心停止について検討しています.5,998人が2階以下,1,844人が3階以上で起きた心肺停止でしたが,低層階の生存率が4.2%であったのに対し,高層階では救急隊が患者さんに接触するまでに1.5分多くの時間を要し,生存率は2.6%と有意に予後が悪かったそうです.さらに,25階以上に住む人のなかには,生存者はいなかったことが報告されています3).日本でも大阪市で同様の検討がされています.3階以上に住んでいた1,885人と,2階以下に住んでいた1,094人の心原性院外心停止の患者さんについて神経学的予後を調べたところ,3階以上に住んでいた人の予後の方が有意に悪いことがわかりました4).日本は世界でも稀なAED先進国であり,この研究でのAEDの使用は,高層階で11.4%,低層階で7.3%とむしろ高層階の方がよい結果でした.それにもかかわらず高層階の方が予後が悪い理由については,救急隊の現場到着がエレベーターを待つ時間などのために約2分遅れることがあげられるでしょう.同時に,高層階の方が搬出してからの胸骨圧迫の質が悪いことも深く関係していると推測されます.日本はエレベーターが狭く,搬送用のストレッチャーが乗らない場合があり,救命士さんは胸骨圧迫に苦労するようです.
ちなみに私の息子は関東の大学に通っていますが,いつも首都圏の高層マンションをみあげては「いつかはこの最上階に住みたい」と思っているそうです.