以前に勤務していた病院の近くで,真夏にレゲエの野外ライブがありました.そのライブではお酒を飲みまくるので毎年数十人の急性アルコール中毒患者さんが病院に殺到し,さすがに問題視されて数年で中止になってしまいました.
急性アルコール中毒の患者さんは,救急外来ではなんとなくルーチンに輸液をする場合が多いのではないでしょうか? 実際,イギリスの救急医のアンケート調査では,73%が急性アルコール中毒に輸液をすると答えています.しかし,アルコールは肝代謝が主であり,実際は輸液をしてもアルコール血中濃度が急激に下がることはなく,代謝には影響しないことが報告されています.これらの研究結果を根拠に急性アルコール中毒への点滴不要論が出ているようにも思いますが,患者さんの個人差が考慮されておらず,全員のアルコール血中濃度を測定しているわけでもないので議論の余地があります.
オーストラリアの病院で,急性アルコール中毒患者に20 mL/kgの生理食塩水をボーラスで輸液した群と輸液をしない群とで比較しています.輸液群では287分,輸液なしの群では274分と病院滞在時間に差はなく,観察中のバイタルサインや血中アルコール濃度の変化,判断能力低下や呂律困難などのアルコール中毒による症状も両群で差はありませんでした1).当たり前ですが,医療コストは輸液群の方が高くついています.日本でも救急外来にきた急性アルコール中毒患者で輸液群(42人)と輸液なしの群(64人)の滞在時間を比べています.両群で統計学的には有意差はありませんでしたが,輸液をしなかった患者の滞在時間は189分,輸液ありの患者は254.5分でした2).
これらの研究の結論は,急性アルコール中毒の患者さんは,事故抜針することもあるし,輸液自体に血中アルコール濃度を下げる作用はないので,低血糖や電解質異常などの重篤な合併症がない限りは輸液などせずに帰っていただいた方がよい,ということになります.しかし,救命センターに運ばれてくるようなアルコール中毒の患者さんは重度の脱水を伴っていることが多く,私自身は細胞外液の輸液をすることが多いです.
ちなみに,お酒飲んでおしっこに何度も行きたくなるのは,アルコールが視床下部に働いて,抗利尿ホルモンが出なくなるからといわれていて,薄い尿が何度も出るのは軽い尿崩症になっているのです3).