スーパー銭湯などのサウナで中高年の男性が汗を流し,その後水風呂にバッシャーンと飛び込むのをみると,いかにも身体に悪そうで救急患者が増えるのではないかと気が気ではありません.なので,私は個人的にはサウナはあまり好きではないのですが,サウナの愛好家は多くいます.果たしてサウナは健康によいのでしょうか?
サウナはもともとフィンランド語だそうで,サウナのことを調べた論文はフィンランドを中心に数多くあります.実はサウナでの心血管イベントはあまり多くはなく,フィンランドで起きた1,631人の急性冠症候群や心原性心肺停止のうち,サウナで起きたのはわずか1.8%でした1) .そのほとんどが心臓疾患の既往,アルコールの摂取と深い関係があり,生理学的にはサウナはジョギングと同程度の負荷がかかると考えられています.それどころか,2,315人のフィンランド人を20年追跡調査したところ,日常的にサウナに入っている人は心血管イベントや突然死の頻度が有意に低かったと報告されています2).このほかにもサウナは関節痛や皮膚病に有効であるという報告や,降圧作用や慢性心不全への効果を示した報告もあります.
そのメカニズムの1つとして,サウナの高温にさらされることにより,熱ショックタンパク質(HSP)という物質が体内で作られるためであろうと言われています.HSPは1974年にTissières らによって発見され,多くのHSPは私たちの身体に恩恵をもたらすことがわかっています.最近の研究で,いわゆるサウナに60分入ることを8週間続けた健常人と何もしていない健常人の血清を採って細胞と一緒に培養すると,サウナ群の細胞では大きなストレスを反映する炎症性のシグナルやサイトカインの増加が著明に抑えられることがわかりました.この細胞には,HSPの1つであるHSP32(別名ヘムオキシゲナーゼ)という抗酸化作用,抗炎症作用をもつ酵素が発現しており,これがメカニズムの1つと考えられます3).このほかにもHSP70は,紫外線による皮膚のメラニン産生を抑制することが知られています.サウナは美容にもよいといえるのかもしれません.
とはいえ,私はサウナで頑張りすぎて,いわゆる重症の熱中症で急性腎不全にまでなった患者さんを診たことがあります.何事もたしなむ程度がよろしいようです.