今は「アンチエイジング」という言葉が使われますが,大昔から人間は「若返り」や「不老不死」への思いが強く,かつての権力者はこの欲望を成し遂げようとずいぶん無茶をしてきました.中世ヨーロッパでは,若返りを目的として若い人からの輸血が多く行われ,当たり前ですが若返りの効果よりも輸血の合併症で多くの命が犠牲になったといわれています.
加齢によって問題となることの1つに認知機能があります.これについてスタンフォード大学を中心としたグループが,18歳から30歳の健常な若者の血液成分をアルツハイマー型認知症の患者に週1回,計4回投与する臨床研究を行っています.しかし,残念ながら認知機能の症状に多少の改善があったものの,有意な差が認められるほどの結果は得られませんでした1).その理由として,老化のような慢性的な状態に対し,断続的な数回の輸血では効果は期待できず,持続的に若い血液に曝露させることが必要であったのかもしれません.そこで,持続的に若い血液を輸血する実験をするために,「パラビオーシス」という2個体の動物の身体を結合させてお互いの血液が交流するモデルが使われました.これは150年以上も前に考え出された実験系であり,加齢の他にもさまざまな研究に用いられています.ハーバード大学のグループは,高齢のネズミに若いネズミの体幹部を縫い合わせ,高齢のネズミに若いネズミの血液が流れるようにしたところ,高齢のネズミの加齢による心肥大が手術を行った4週間後には著明に改善したことを報告しています.彼らは,この若返りのメカニズムとして,若いネズミの血中に含まれるGrowth differentiation factor-11(GDF-11)が深く関与していることを突き止めています2).
加齢臓器の若返り効果は,心臓以外にも,骨格筋,軟骨,肝臓,中枢神経系で証明されていて,しばらく継続することが明らかになっています3).研究者は,このような若い血液に含まれるアンチエイジング物質を見つけることに躍起になりましたが,今のところ,これといった大発見はなされていません.逆に,老化を促進する因子としてchemokine ligand 11,β2-microglobulin,補体C1qなどが相次いで報告され,今後の研究に期待がかかるところです.
実際の人間では若い人の血液を持続的に輸血するのはなかなか難しいことですし,倫理的な問題も大きいでしょう.やはり不老不死は永遠のテーマですね.