救命救急センターには,子どもが朝起きてこないので家族が様子を見に行くと布団の中で心停止していた,といった学童期の患者さんが稀に搬送されてきます.多くの場合,目撃がない心停止であり,救命できない,あるいは心拍が再開しても重大な後遺症を残してしまうことが多く,患者さん本人やご家族ばかりでなく,われわれも本当に辛い経験をします.死因が臨床的に特定できない場合には司法解剖されることがありますが,それでも特定できないことがあります.
最近,遺伝子解析の進歩によって遺伝性不整脈の診断ができるようになり,これまで原因不明とされていた突然死の原因が推定できるようになってきました.なかでも比較的頻度が高いのが遺伝性QT延長症候群です.子どもが学校の朝礼で倒れた,といって搬送されてくる場合は神経調節性失神がほとんどですが,それでも必ずQT延長も疑って,突然死の家族歴や学校での健診の異常を聴取することが必要です.また,QT延長を疑うことができたとしても安静時の心電図の異常が全例に出るわけではなく,スクリーニング検査で見つけるのはなかなか至難の業です.
遺伝性QT延長症候群の代表的な遺伝子型にはLQT1,LQT2,LQT3が知られています.LQT1は運動時など頻脈時に,LQT3は安静時や睡眠中に心イベントを起こしやすいといわれています.一方,LQT2は,情動ストレスや目覚まし時計の音での覚醒などを契機に心イベントを起こしやすいことが知られています1〜3).昔のジリジリとけたたましい音をたてる目覚まし時計は最近あまり見ませんが,その危険性が認知されてきたためであり,最近の目覚まし時計は,最初は穏やかなアラーム音が低音量ではじまりだんだんと音が大きくなるように設計されています.以前,寝ている芸能人を爆音で起こすテレビ番組のドッキリの企画がありましたが,あれは実は相当危ないことであったのかもしれません.びっくりしたり,興奮したりするのは命がけなのです.夜勤のときの着信音はやさしい音に設定しましょう.