岡山県の特産品に,黄ニラというやわらかくて少し甘いニラがあり,これは高級食材で珍しいものだそうです.一般的にみる緑色のニラは,私はレバニラ炒めくらいしか思いつかないのですが,レシピは無限にあるようで日本ではニラはたいへん多く消費されています.栽培が簡単で,すぐに増えるので家庭菜園で育てられることも多いのですが,ニラはスイセンの葉とよく似ているため,間違えてスイセンの葉を食べてしまうということが起こります.スイセンにはアルカロイドという毒が含まれているので「ニラと間違えて食べて中毒になった」というのは比較的よく聞く話です.注意喚起がされていても,毎年10人以上の患者さんが発生し,2016年には北海道で死亡例も報告されており,注意が必要です1).
アルカロイドは低分子の有機化合物で,生物の神経を興奮,麻痺させる強い毒性をもっています.植物がつくり出すアルカロイドは1万種以上もあり,抗がん剤のパクリタキセル(タキソール®)などのように医薬品などに利用されているものもあれば,ケシに含まれるモルヒネやタバコに含まれるニコチンもアルカロイドの一種です.植物はアルカロイドを身につけることで,虫や草食動物から身を守っているというわけです.
先日,ある家族がひどい嘔吐で搬送されてきました.お父さんが腕を振るってつくったカレーを食べたところ,1時間もしないうちに症状が出てきたというのです.このお父さんは,カレーにタマネギと間違えてスイセンの球根を入れていました.球根には葉よりもはるかに多くアルカロイドが含まれるため,激烈な消化器症状をきたします2).ここで忘れてはいけないのが保健所への届け出です.食中毒は確定診断がつかなくてもすみやかに保健所に届けることが食品衛生法で定められています.
スイセンは,属名をナルシス(Narcissus)といい,これはギリシャ神話の美少年ナルキッソスの名前にちなんで名づけられています.彼は池で水を飲もうとしたときに,水面に映る自分の姿に一目惚れし,そのまま水面の自分に思いをはせて衰弱して死んでしまいました.そして彼が亡くなった後には美しいスイセンの花が咲いていたそうです.この話は「ナルシスト」の語源にもなっていて,スイセンの花言葉は「うぬぼれ」や「自己愛」になっています.