働き方改革が提唱され,医療者はできるだけ仕事や労働時間を減らすことが求められています.その手段として最たるものが人工知能(artificial intelligence:AI)の利用であり,今後どんどん臨床の現場に導入され,疲労や人的ミスによる診断,治療の精度低下を防ぎ,人員不足による業務負担の軽減に大きな役割を果たしてくれることでしょう.一方で,機械は信用できないという人のために,というわけではないのでしょうが,訓練した動物を臨床現場で活用する研究も行われています.
米国のアイオワ大学では,8羽の鳩に乳房の組織スライドを毎日1回見せ,鳩はその腫瘍が悪性だと判断すれば黄色,良性だと判断すれば青色の長方形をつつき,正解すると自動的にご褒美のピーナッツが出てくるという訓練を行いました.これだと,スライドを絵として記憶している可能性があるので,別の組織でのテストも行いました.訓練のはじめは,鳩たちの正解率はだいたい50%ほどでしたが,わずか2週間のトレーニングで平均85%に向上しました.特に成績のよかった4羽は30日後に最高99%の正解率となり,これは十分な経験がある人間の病理学者に匹敵する結果であったそうです1).
もともと,鳥は上空から地面の小さな餌を見つけるほど視覚による画像解析能力があることが指摘されており,また鳩はかつて伝書鳩として使われたように帰巣本能に長けた賢い動物です.この論文を病理の先生が見たら,さぞかし不快に思われるかもしれませんが,鳩たちはマンモグラフィーの判断もできるようになりました.鳩たちに読影のポイントを教えたわけではなく,鳩たちがどのように複数の画像から病巣を判断しているかは不明ですが,鳩たちの画像診断のコツを知れば,コンピューターによる画像解析プロセスの向上にも役立つといわれています.
また,嗅覚に優れる犬を臨床現場で活用する研究も行われています.2匹の犬を訓練し,362人の前立腺癌患者と540人の健康な人を対象に,犬が尿のにおいによって前立腺癌患者を区別できるかを調べると,どちらの犬もほぼ完ぺきに前立腺癌患者を区別し,がんがない人はないと判断しました2).人間も彼らに負けてはおれませんね.