私は自家用車をもっていないので,移動は自転車が中心です.自転車の健康効果については小児から高齢者まで幅広く研究が行われていますが,どの研究でも心肺機能を改善し,心臓病や癌による死亡率,肥満のリスクを減少させることが示されており,適度なサイクリングが健康によいのは疑いの余地はありません1).
一方で,救命救急センターには自転車に乗っていて怪我をした患者さんが多く搬送されてきます.ちょうど臨床実習で救急科に回ってきた優秀な学生が,自転車のヘルメットと外傷の関係について詳しく調べてくれたので紹介します.1989年から2017年に報告された55の自転車事故に関する研究を集計してみると,死因の6割が重症頭部外傷であり,ヘルメット着用により重症頭部外傷を60%,死亡を34%減少させることがわかりました.効果は飲酒者でより顕著で,自転車のヘルメット着用は外傷予防の面で強く推奨されます2).
であれば,自動二輪のように自転車でもヘルメット着用を義務付ける法律をつくったらいいと思いますよね.そこでオーストラリアのある州でヘルメット着用義務化法が制定・施行されたのですが,その後なんと自転車の利用が20〜40%減少したそうです.自転車はヘルメットなしでお手軽に使用できるという利点があります.またヘルメットなしで風を切って走るのは気持ちよく,特に夏などではヘルメットは暑くて不快で不便です.実際,西オーストラリア州の成人サイクリストの64%が,ヘルメット着用の義務がなければ自転車にもっと乗るだろうと答え,ニューサウスウェールズ州では自転車をもっている小学生で過去1週間に自転車に乗らなかった人の51%が,その理由としてヘルメット着用の義務をあげています3).
ヘルメット着用の義務化は安全面でははるかに優れていますが,義務化によって自転車の利用者が減少してしまいます.諸説ありますが,それによる健康への影響は甚大で,「ヘルメット法は少数の脳を救うが,多くの心臓を破壊する」と結論付けた報告もあります4,5).皆さんは自転車のヘルメット着用の義務化について,どう考えますか?