自分の誕生日に亡くなる人が多い,という都市伝説は古くからまことしやかに言われています.実際に日本の人口動態調査のデータを分析した研究によると,誕生日以外の死亡者数の平均が約5,700人であるのに対し,誕生日に死亡した人の数は有意に多く約8,000人であり,その影響が顕著にみられる死因は自殺だったそうです.誕生日に自殺で亡くなる人は誕生日以外の1.5倍に及び,自分の誕生日を幸せに祝えない状況を悲観して自殺してしまうのではないか,と推測されています1).興味深いことに60歳の誕生日に自殺する人が最も多く,60歳といえば「生まれ直して赤ん坊に戻る」という意味をもつ「還暦」で,赤いちゃんちゃんこで祝ってもらう人生の区切りの日です.そんな日に自殺する人が多いというのは,何とも皮肉なものです.最近の人間関係の希薄化,社会環境が影響しているのかもしれません.なお,誕生日には,はしゃぎすぎたり,興奮しすぎたりするためか事故による死亡も20〜40%多いと報告されていますが,自殺が事故として扱われている場合もあると思われます.
同様の研究は欧米でもなされており,スイスの1969年から2008年までの全死亡を調査した結果では,誕生日に亡くなる人は平均で13.8%も高いことがわかりました.心血管系の疾患や脳卒中が原因である場合は女性に多く,自殺や事故も多くみられたようで「誕生日ブルー」(birthday blues)と呼ばれる現象です2).カナダのオンタリオで血管系のイベントで救命センターに入院した24,315人を調べたところ,脳卒中や心筋梗塞は有意に誕生日に多いことがわかりました.その傾向は高血圧患者や高齢者でより顕著であり,誕生日にはストレスが余計にかかり,それが悪影響を及ぼしている,と考察されています3).なお,日本の還暦にあたる60歳という区切りの影響は欧米の論文からは明らかではありません.
一方で,癌患者などは誕生日に死亡する人の数は少なくなるといわれており,誕生日など自分にとって意味のある記念日を迎えるまでは生き続けようとする「延期(あとまわし)」仮説もいわれています.われわれにとっては自殺者を減らすことが最も大切です.アメリカのある地域では飲酒が可能となる21歳の誕生日にアルコールに気をつけるように警告するメールが届くそうですが4),このように自殺のリスクのある人には誕生日前に自殺を予防するようなメールを送るシステムがあってもいいのかもしれませんね.