冷や汗が出るほど強い背部痛で救急外来を受診される患者さんのなかに尿路結石の方が多くおられます.尿路結石は,生涯に男性では11%,女性では6%に起きるとされる一般的な疾患です.救急外来ではなかなか根治的な治療を行うことができず,輸液をして,あとは鎮痛剤を処方して排石を待つ,という対応になることが多いのですが,早く排石させるためにジェットコースターがよい,という研究があります.
この研究はディズニーランドでビッグサンダーマウンテン(※1)に乗った後に尿路結石が出てきた,と多くの患者さんが言っていたことがきっかけだそうです.本当にジェットコースターで排石されるかを確かめるために,患者さんから実際に排石された3つの異なる大きさの結石を用意し,腎臓のリアルな模型をつくってその中に結石を1つ入れて,さらにその模型をバックパックに入れ,20回ずつ自分でビッグサンダーマウンテンに乗り込んで実験しています.ちなみに,最初は子牛かブタの腎臓を使って実験しようとしたところ,腐敗の恐れや家族で楽しむアミューズメント施設には不適切だということで許可されなかったり,腎臓の模型を弾道ゼラチン(※2)でつくったら何度も乗るうちに壊れてしまったりするなど,研究者はこの実験を行うにあたって結構苦労されたみたいです.結果は,先頭座席では排石率が12.5%前後であったのに対し,最後部では約3分の2が排石されたそうです1).
もちろん研究には突っ込みどころは山ほどあり,排石のための最適な速度や落下の条件についてもわかっていないのですが,この研究者は定期的なコースター乗車によって結石が手術を要する5 mm以上になる前にとり除くことができると主張しているのです.尿路結石については,アーユルヴェーダというインドの伝統的な医学ではハーブや特殊なワインを飲んだ後に馬に乗ると排石される,という報告2)もあったり,アシュタンガヨガという特殊なヨガが一番いいぞ,という主張もあったりします.これらはOsteopathic Medicine,つまり自然治癒力を鼓舞する医学であり,われわれが慣れ親しんでいるいわゆる「西洋医学」とはかなり異なります.私が苦手とする分野ですが,こういう少しなじみが薄い分野からも大きな発見があるかもしれません.
※1:ディズニーランドにあるジェットコースターの1つ ※2:人の筋肉に近い硬さのゼラチンで,銃弾の威力などを測るために用いられる