毎年冬場に寒くなると,季節性インフルエンザや風邪が流行します.実はこの理由はあまりわかっておらず,そもそも上気道感染症の詳しい病態や免疫自体よくわかっていませんでした.最近,細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)が上気道感染に重要な役割を果たしていることが明らかになりました.細胞外小胞とは聞き慣れない言葉ですが,細胞から放出される微小ナノ粒子,つまり細胞のかけらです.この小胞の中には遺伝子情報,糖,タンパク質が含まれており,一般には細胞間のコミュニケーションに使われます.鼻粘膜は病原体の感染を検知すると,病原体と戦う仕組みが満載された細胞外小胞を分泌します.その様子は,攻撃を受けた蜂の巣から蜂が飛び出していく様子に似ています.
放出されたEVにはウイルスが細胞にとり付くときに利用するのと同じ受容体であるToll様受容体3(Toll-like receptor:TLR3)があり,ウイルスは細胞と間違えてEV上のTLR3にくっつきます.ウイルスは自身では増える能力をもたないため,増殖するには細胞がもつ遺伝子転写の仕組みを乗っとる必要があります.しかしEVには,そのような仕組みは存在しないため,細胞と間違ってEVにとり付いてしまったウイルスは,自己複製ができずに死滅します.こうやって,鼻粘膜は自らの分身であるEVをおとりにすることによってウイルスを排除し,ウイルス感染から守っているのです.さらにEV自身も抗ウイルス作用があるタンパク質やmiRNAという武器をもって戦います1).
最近の研究で,鼻粘膜の温度が5℃下がると鼻粘膜から分泌されるEVの量が4割も減少し,その分だけ鼻粘膜の抗ウイルス作用が質,量ともに低下することがわかりました.これが,寒くなると風邪やインフルエンザなどのウイルス感染症が流行する理由の1つと考えられると結論付けています2).なので鼻粘膜の温度が下がるのを予防することは,風邪の予防にもつながります.「頭寒足熱」が健康によいといいますが,鼻だけは暖かくしておいた方がよさそうです.
これらの感染症は,北半球でも南半球でも同じように「冬」の訪れとともに流行しますが,北半球と南半球で交互に勢力を盛り返すことにより,絶滅せずに毎年猛威をふるい続けるのだといわれています.