著者が所属する高度救命救急センターには,激辛が大好きな先生がいます.辛いものは代謝を上げるので痩せる,と主張していますが,彼のお腹はかなり大きいです.でも,確かに辛いものを食べると痩せるという話は聞いたことがあります.実際はどうなのでしょうか.
激辛で思いつくのは唐辛子ですが,韓国でキムチの摂取量と肥満との関係を実際に調べた報告があります1).ベースラインのBMIが25 kg/m2以上の肥満の2万66人を対象に,前向きリスク評価分析を実施しました.被験者は,何を食べたか詳細な記録をとることを義務付けられています.キムチには,ベチュキムチやカクテキなど色々な種類がありますが,それらをひっくるめて大体50グラムをキムチの標準摂取量として設定しているようです.調べた結果,標準よりも多くキムチを摂取している人は,アルコール,脂肪,タンパク,線維の摂取量が多く,炭水化物の摂取量は少ない傾向にありました.また,キムチの摂取量に応じて経過を追ってみると,キムチ摂取量が多い群ではBMIの増加が少なく,長期間,適度なキムチを摂取することは,中高年,特に男性の適正な体重維持につながる,と結論づけています.しかし,その効果を体重だけで判断してよいかは議論の余地がありますし,キムチと体重との関連を「辛味」の唐辛子に求めるのは無理があります.
どうやらキムチは発酵食品なので,ラクトバシラス(Lactobacillus)というグラム陽性菌が多く含まれていて,この細菌が大きな役割をもつという説が有力で,マウスを使った実験で証明されています.高脂肪食を与えたマウスは,視床下部を含む全身に慢性炎症を引き起こしましたが,白菜キムチを処理してマウスに経口で与えたところ,体重,脂肪量の増加,炎症誘発性サイトカインのレベルが有意に低下したそうです2).
また,肥満がある韓国人にキムチ由来のプロバイオティクスであるLactobacillus Sakeiを3カ月間与えたところ,プラセボでは0.6 kg脂肪が増加したのに対し,0.2 kg減少しました3).これらの結果は,キムチが腸内細菌叢の組成に変化を与え,肥満とそれに伴う炎症の予防と改善に有効である可能性があることを示しています.もちろん,キムチには大量の塩分が含まれるので食べる量には気を付けないといけませんし,焼き肉屋を思い出すとわかるように,キムチと一緒に食べるものによっても効果は違ってくるでしょう.キムチが体によいのは間違いないようですが,暴飲暴食をしてもキムチを一緒に食べれば太らない,などと都合よくはいかないようです.