「美容,健康のために水を毎日2 L飲みます」とモデルや女優さんがSNSなどに投稿しているのをよく見かけます.確かに彼女らは美しい体形を保っていますが,あれって本当に効果があるのでしょうか?
比較的新しい降圧薬にバソプレシン受容体拮抗薬があります.これは水の再吸収作用をもつ抗利尿ホルモンであるバソプレシンの働きを阻害して,体液のうち水だけを出そうとするものですが,最近バソプレシンが糖尿病や肥満と深く関係するという研究結果が発表されています.
以前から肥満や糖尿病の患者さんの体内では,バソプレシンの値が高いことが知られていました.砂漠に住むラクダはバソプレシンの値が高く,水を脂肪に変えて背中のこぶに蓄える仕組みは,このバソプレシンの働きによるといわれています.また,バソプレシンは血管を収縮させて血圧を上げる作用もあり,バソプレシンが増加した状態はメタボリックシンドロームとも深い関係があります.
コロラド大学の研究チームが行った実験では,マウスにフルクトースを与えると視床下部が刺激されてバソプレシンが放出され,上昇したバソプレシンは体内の水分を脂肪として貯蔵しはじめました.V1bというバソプレシン受容体をもたないマウスで同じことを試してみると脂肪の蓄積が起こらなかったことから,糖尿病や肥満の病態にV1bを介するバソプレシンの作用が深くかかわっていることが明らかになったのです1).そうであれば,十分に水を摂取し体液を管理してバソプレシンを出さないようにすれば,糖尿病や肥満の治療や予防になることになります.そこで研究チームは,マウスに水を十分に補給する処置をしたところ,マウスは脂肪を蓄えませんでした.さらに,スウェーデンのルンド大学とスコーネ大学の研究チームは,31人の健常人に6週間,食事は一切変えずに,飲水量を1.5 L増加させるだけで空腹時血糖値が下がり,バソプレシンの値を反映する数値が減少することを報告しました2).
つまり,これらの研究から糖の摂取がバソプレシンを活性化させ,バソプレシンは体内の水分を貯蔵するために脂肪生成を促進させることがわかりました.また,脱水状態はバソプレシンをさらに活性化させ,肥満を生む可能性もあります.水分の十分な摂取はバソプレシンを抑制し,糖尿病や肥満,メタボリックシンドロームの予防と治療の両方に効果的であるかもしれません.とはいえ,水中毒にならないように過度な水分摂取には注意しましょうね.