患者さんに注射するとき,黙っていきなり針を刺すのではなく,「ちょっとチクッとしますよ」というお声がけをしますよね.英語でなんて言うのかわからなかったのですが,アメリカでは針を刺す前に“Pinch”や“Little Pain”と言ったりします.そうはいっても,大人のわれわれでも針を刺されるわけですから痛いですし,子どもであれば泣き叫んで暴れて困ることもあります.
そんな針を刺す際の痛みを少しでも和らげるために,子どもではさまざまな試みがされています.基本的には気をそらすことに焦点が当てられ,注射の間,ぐにゅっと潰れるゴムボールを反対の手に握らせる,風船を膨らませる,さまざまな隠された絵やパターンを含む絵カードを見せる,といった工夫が試されていますが,いずれの場合も子どもたちの痛みのストレスは減少しませんでした1).一方,ヨーロッパで6歳から12歳の子ども100人を対象に,半数に対して針を刺す数分前から塗り絵をさせることの効果を試した研究が行われ,塗り絵をさせた子どもたちは,疼痛や不安が有意に改善したという結果がでています2).最近はVRを使い,6カ月から4歳の子どもたちに,熊やリスと一緒に森を走り回る映像を見せるテクノロジーが応用されています.子どもたちにゴーグルをつけることは難しいので,ドーム型の天井スクリーンを使ってVR環境にしていますが,VR映像を見た子どもたちは疼痛が軽減されたと報告されています3).
ちなみに,細い針の方が痛みは少ないのかというと,そうでもないようです.オーストラリアの救急病院で89人ずつをランダムに割り付けて,18Gと20Gの針を使用して調査をしています.この研究は子どもを対象にしたものではありませんが,患者が感じる刺す時の疼痛,医療者が感じる手技難易度,初回の成功率のいずれにおいても,両者で差がありませんでした4).
私は献血が趣味なのですが,献血の針はかつて16 Gでしたが最近は18 Gまで細くなってきており,先端にバックアイという側孔があることで細くても効率的に採血できるようになっています.針を刺す痛みと効果的な医療のせめぎ合いは,いろんなアプローチが必要なようです.