クリスティーンは,ウラノ先生の研究室に配属が決まった.今日は,彼女の研究室の最初の日であり,細胞培養の基本的な技術を学習する予定である.クリスティーンはウラノ先生と細胞培養室で会った.クリスティーンは,この機会に興奮すると同時に,やや不安も感じている.
ウラノ先生こんにちは,クリスティーン.調子はどうですか? 私たちの一番新しいチームメンバーとして,早速始める心構えはできましたか?
クリスティーンおはようございます,ウラノ先生.元気です,ありがとうございます.準備はできています,やりますよ!
ウラノ先生よろしい.今日は,細胞培養の基本的な技術を学びましょう.私が座っている前にある,このクリーンベンチで実験を行います.ここが今日の舞台です.
クリスティーンは,熱心に聞き,見ている.
ウラノ先生まずは,ライトをつけて,クリーンベンチの表面と自分の手を,70%のエタノールで消毒しましょう.
クリスティーンなぜ,クリーンベンチと手を70%エタノールで消毒する必要があのでしょうか?
ウラノ先生注意しておくに越したことはない,ということです.クリーンベンチに入れる実験道具,ベンチの表面,私たちの手は,バクテリアなどの混入を防ぐために,すべて滅菌する必要があるのです.
細胞は,インキュベーター内で育てます.
ウラノ先生がインキュベーターを開け,293T細胞の入った10 cmの培養皿を取り出した.
そして,培養皿を部屋の別の場所にある顕微鏡のところに持って行き,レンズの下に培養皿を置いた.ウラノ先生はピントをあわせて細胞を見ている.
ウラノ先生さて,クリスティーン,これが293T細胞です.細胞を顕微鏡で見て,どのように見えるか説明してくれますか?
クリスティーンは顕微鏡をのぞきこんでいるが,困惑している様子.
ウラノ先生クリスティーン,大丈夫ですよ.マイペースでやってください.
クリスティーンええと,培養皿の底に付着している細胞が見えます.でも,何を見ているのか,はっきりわかりません.ちょっと困っています.
ウラノ先生そうだね,どの位の細胞があるかは,細胞の混み具合で表現するのが慣習なんだ.培養皿を全体として見てご覧.どのくらいの割合で,細胞が培養皿をカバーしていると思いますか?
クリスティーン培養皿の50%くらいが,接着した細胞によってカバーされているように見えます.
ウラノ先生その通り!ではこれからこの培養皿にある細胞を,2枚に分けましょう.1:2のスプリットと呼ばれる方法です.最初に,細胞を培養している培地を吸い取ります.そして,細胞を1度PBSで洗います.PBSを吸い取り,1mLのトリプシンを加えましょう.トリプシンは,37度のウォータバスで湯せんしてあります.
クリスティーン知らなくて申し訳ありませんが,トリプシンとは何ですか?
ウラノ先生トリプシンは,一種のプロテアーゼで,細胞を培養皿に付着させているタンパク質を分解するのです.培地に含まれるトリプシン阻害剤を除くために,私たちは最初に細胞を洗ったんですよ.
では細胞をトリプシン処理している間,細胞をまくための培養皿を用意しましょう.培養皿に,細胞の名前と種類,私たちのイニシャル,そして今日の日付を書いておきましょう.それぞれの培養皿には,10 mLの培地が入ります.ですので,5mLの培地が入っている培養皿に,5mLの細胞が入っている培地を加えるようにしましょう.つまり,2つのラベルした培養皿に5mLずつの培地を入れるわけです.
クリスティーンわかりました.この細胞を培養するのには,どのような培地を使用するのでしょうか?
ウラノ先生この細胞に使用する培地は,DMEMと呼ばれる培養液に10%の牛胎仔血清,1%のペニシリンとストレプトマイシン,これはペンストレップとも呼びますが,それらを含んだものです.ペンストレップは,バクテリアが増殖するのを防ぐための抗生物質です.培養液は,すでに37℃に湯せんしてあります.10分間,細胞がはがれてくるのを待って,ここでまた会いましょう.
10分が経過し,クリスティーンは細胞培養室に戻ってきた.
ウラノ先生それでは,はがれてきた細胞を9.5 mLの培地で懸濁し,5mLずつをそれぞれの培養皿にピペットで加えましょう.そうすると,それぞれの培養皿には10 mLの培養液が入っていることになります.君も1枚の培養皿にある細胞を2枚の培養皿に分けてくれるかな.その前にはいつでも,細胞を光学顕微鏡で見て確認するようにしよう.これは難しいコンセプトです.わかりやすく説明できていればよいのですが.なにか質問はあるかな?
クリスティーンいつも細胞は,1枚から2枚へと分割して増やしていくのでしょうか?
ウラノ先生いい質問だね.細胞は,混み具合によって分割して増やしていくんだ.混んでいれば混んでいるほど,分割度を上げていく必要がありますね.つまり,例えば,もし細胞が100%の混み具合だとすれば,私たちは1枚から4枚へと細胞を分割するでしょう.それから,細胞の種類とその増殖の早さにもよりますね.素早く増殖する細胞の場合,増殖が遅い細胞に比べて,たとえ混み具合が同じでも,分割度を上げる必要がありますね.
クリスティーンありがとうございます.
クリスティーンは,自分で細胞をまく準備ができている.
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