羊土社では,初めて科研費を申請する研究者,慣れていない研究者へ向けて,科研費の概要・応募戦略の立て方・申請書の書き方などを解説した単行本『科研費獲得の方法とコツ』(現在は第7版)を刊行しています.
ここでは,常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を,著者の児島将康先生に「速報」として随時紹介していただきます.ぜひ定期的にチェックしてください.
科研費はこれまで9月1日〜11月初旬までが公募期間であり,翌年4月1日に内定(採否)発表があった.それが今年の公募〔令和4(2022)年度の公募〕から1〜2カ月早くなりそうだ(研究種目によって前倒しの度合いが異なる).
現在は,大学の業務が会計年度単位で動いているために,4月1日に発表される科研費の採否によって,研究計画や研究スタッフの継続雇用などに影響が出てしまっている.前倒しの理由はこれを(ある程度)軽減するためだ.特に今の公募と内定のスケジュールでは,科研費によって雇用している研究スタッフが4月1日以降も雇用できるのかどうかは,4月1日の内定発表までわからない.そのため雇う方も,雇われる方も,次年度の先が読めない.下手をすれば,新年度初日の4月1日になって雇用が打ち切られることも起こりうる(実際にあったことだろう).また採択を前提として購入を予定していた機器や試薬は,不採択になったときには購入ができなくなり,否応なく研究計画を変更しなければならない.
そこで前年度のうちに採否の発表を行えれば,4月1日以降の研究計画や雇用計画も立てやすいということで,今回の改正になるようだ.このような目的なので,この変更は今年の公募だけではなく,今後もずっと続く可能性がある(もしかしたら来年以降はさらに早まるかもしれない).
実際の変更点は表を見ていただきたい.応募者の多い基盤研究(B, C)・若手研究・奨励研究・挑戦的研究では,公募開始が8月上旬とこれまでより1カ月早くなる.また大型の特別推進研究・基盤研究(S, A)では公募開始時期が7月上旬とこれまでより2カ月早くなる.それに合わせて公募締切時期も前倒しになる.
また内定時期は基盤研究(A, B, C)・若手研究・奨励研究では2月末,特別推進研究・基盤研究(S)・挑戦的研究では正確な内定時期はまだ不明で,今年の公募に関しては「令和3年度内定時期よりも早期」とされている.
しかし正直,内定時期が2月末と約1カ月早くなったくらいでは,次年度の研究計画への影響はあまりないのではないか.研究スタッフの継続雇用のためには,少なくとも3カ月前くらいの12月末くらいに採否の発表がないと,不採択のときに次の勤務先をみつけるのは難しいのでは?
この公募時期の前倒しによって最も影響を受けるのは,もちろん応募する研究者だ.共同研究者との打ち合わせなどで,今年は5月連休明けには応募の準備をはじめる必要があるだろう.今からしっかりと準備をしておきたいものだ.
研究種目名 | 公募開始時期 | 公募締切時期 | 内定時期 |
---|---|---|---|
特別推進研究 | 令和3年7月上旬 | 令和3年9月上旬 | 令和3年度内定時期(5月下旬)よりも早期 |
基盤研究(S) | 令和3年7月上旬 | 令和3年9月上旬 | 令和3年度内定時期(7月上旬)よりも早期 |
基盤研究(A) | 令和3年7月上旬 | 令和3年9月上旬 | 令和4年2月末 |
基盤研究(B、C)、若手研究、奨励研究 | 令和3年8月上旬 | 令和3年10月上旬 | 令和4年2月末 |
挑戦的研究 | 令和3年8月上旬 | 令和3年10月上旬 | 令和3年度内定時期(7月上旬)よりも早期 |
研究成果公開促進費 | 令和3年8月上旬 | 令和3年10月上旬 | 令和3年度内定時期(4月1日)よりも早期 |
帰国発展研究 | 令和3年7月上旬 | 令和3年9月上旬 | 令和2年度内定時期(3月中旬)よりも早期 |
学術変革領域研究(A) | 令和3年8月下旬 | 令和3年10月中旬 | 令和4年6月下旬 |
学術変革領域研究(B) | 令和3年8月下旬 | 令和3年10月中旬 | 令和4年5月下旬 |
新学術領域研究(研究領域提案型)(公募研究) | 令和3年8月下旬 | 令和3年10月中旬 | 令和3年度内定時期(4月1日)よりも早期 |
※ 令和3年度学術変革領域研究(A)の内定時期は9月上旬、学術変革領域研究(B)の内定時期は8月下旬を予定しています。
なお、学術変革領域研究(A)(公募研究)については、令和3年11月下旬を目途に公募を開始する予定です。
※ 帰国発展研究については、令和3年度公募になります。
※ 文部科学省、日本学術振興会の公表資料より引用。