「速報」では常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を児島先生に随時紹介していただきます.
例年通り,9月1日に来年度(平成30年度)の科研費公募がはじまった.今回は科研費の制度が大きく改革される年である.その改革(変更点)の要点をまとめると図1のようになる.
この速報では,「科研費獲得の方法とコツ 改訂第5版」では詳しく触れられなかった来年度からの新しい申請書への対応について解説していく.
平成30年度の申請書(研究計画調書)は,これまでの申請書とかなり異なる.体裁として罫線・枠線がなくなるとともに,これまで別々の項目だった「研究目的」と「研究計画・方法」が,1つの項目「1 研究目的,研究方法など」にまとめられた.また,これまで「研究目的」や「準備状況」に分かれていた部分も,「2 本研究の着想に至った経緯など」として1つになった.従来の申請書に慣れた研究者は戸惑うかもしれないが,よくチェックするとこれまでのものとそれほど大差はないので,安心することだろう.
ここでは申請者が多い若手研究と基盤研究(C)のフォーマットに合わせて,どのように申請書を構成していったらいいのか,その案を示していこう.なお,今回の“その1”では「1 研究目的,研究方法など」を,2017.09.08掲載予定の“その2”では「2 本研究の着想に至った経緯など」を解説する予定である.
まず言うまでもなく,新しい申請書で最も重要な部分は「1 研究目的,研究方法など」である.ここが若手研究と基盤研究(C)の申請書では3ページある(図2〜4).これまでは「研究目的」と「研究計画・方法」がそれぞれ2ページずつの,合計4ページあったので,1ページ少なくなったと思うかもしれない.しかし従来の申請書には「研究計画・方法」に説明欄と概要の部分があり,それを考慮に入れると実質の減少分は約半ページである.従来の研究目的の2ページあった部分が半ページくらいになったと思っていい.
また罫線・枠線がなくなったが,やはり上下左右のスペースはある程度は必要なので,1ページに書き込める量はそれほど変化はない.記入要領では,様式の余白は,上20mm,下20mm,左25mm,右25mmで設定してあり,審査資料の作成のときに文字等の欠落が起こらないように,設定は変更しないように書かれている.
「1 研究目的,研究方法など」には次の4つの内容を記載するように求められている(図2〜4).
(概要)および(1)と(2)はこれまでの「研究目的」にほとんど同じ項目があり,(3)は「研究計画・方法」に相当する部分である.
おおよその分量の目安として,
(概要)は10行程度(との指定がある).
(1)が1ページ目の残りの部分.つまり3/5ページほど.
(2)が2ページ目の半分くらいまで.
(3)が残り1ページ半.
くらいだろうか.
それぞれの要点をまとめていこう.
「10行程度で記述」とあるように,研究全体のサマリーを10行程度でまとめる.これまでの申請書の概要は8行程度記入できたので,ほぼ同じ分量でよい.この概要部分,審査委員は必ず最初にここを読む.審査委員に研究の内容を印象づける,最も重要な部分と言ってもいいだろう.注意点は,「最初の部分だが,最後に書くこと」である.
学術的背景はこれまでの申請書にもあったが,重要なのは「研究課題の核心をなす学術的「問い」」の部分である.おそらく,これまでの申請書では研究計画の問題点や解明すべき点などの記載が不十分との意見が多かったのではないか? 新しい申請書ではわざわざ「研究課題の核心をなす学術的「問い」」を書け,つまり問題点をはっきりと書くようにとある.問題点,解明すべき課題,未解明の問題,何を明らかにする意義があるのか,などをしっかりと書くこと.
ここでは「本研究の学術的背景」と「研究課題の核心をなす学術的「問い」」と分けて書くのが書きやすいと思う.
「本研究の学術的背景」は,さらに2つに分けて書く.まずこの研究テーマの一般的な研究の背景と,申請者以外の研究者によって行われてきた研究の要点を書くとよい.そのあとに,申請書がこの研究テーマに関してこれまでにどのような研究を行ってきたのか,そしてどのような研究業績をあげてきたのかを書くとよい.大事な点は,申請者と他の研究者の研究内容を混ぜて書かないということ.申請書自身がどのような研究を行ってきたのかをしっかりと区別して書くことだ.これによって申請者がこの研究をやる意義,実行可能性などを示すことができる.
背景をきちんと書いてこそ,次の「研究課題の核心をなす学術的「問い」」が活きてくる.先にも書いたが,この研究テーマに関して,いま何が問題なのか,解明すべき課題は何か,未解明の問題は何か,なぜこの研究テーマを明らかにする意義があるのか,などをしっかりと書く.そしてこの問題点をはっきりと書くことで,次の「(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性」につなげることができる.
おさらいらすると,「研究の一般的な背景,他の研究者による研究の成果」→「申請者がこのテーマに関して,これまでに行ってきたこと」→「何が問題点なのか?未解明の問題は?」の順で書く.
ここも「本研究の目的」と「学術的独自性と創造性」に分けて書くとよい.「学術的独自性と創造性」は「学術的独自性」と「創造性」とに分けて書いてもよい.
「本研究の目的」は申請書のテーマであり,「1 研究目的,研究方法など」のなかでも最も重要な部分である.この研究の目的は何か,どのようなことを行うのかをまず書く.2〜3行くらいでいいだろう.そのあとに研究目的を実現するための,実際の研究の内容をいくつか書けばよい.若手研究や基盤研究(C)では3つくらいだろうか? サブテーマと言ってもいいだろう.
次の「学術的独自性と創造性」は,これまでの「当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義」に相当する部分だ.
ここも「学術的独自性」と「創造性」に分けて書くのが,書きやすいし,読む方も理解しやすい.この部分,とくに書きにくい,何を書いたらいいのかわかりにくいかと思う.しかし身構える必要はない.この研究計画がなぜ重要なのか,その重要性や研究の意義をしっかりと書いておけばいい.間違っても「この研究は世界中で私しかやっていないので独自性・創造性がある」とか書かないことだ.なぜ重要なのかを,研究の内容からきちんと説明すること.
ここには具体的な研究計画・方法を書く.これまでの申請書の「研究計画・方法」は2ページあったが,最初に記載の説明欄と概要の部分があり,この部分を除くと記入部分は約1ページ半になる.つまり新しい申請書でも研究計画・方法はほぼ同じ分量である.
内容はこれまでの研究計画・方法と同じ書き方でよいだろう.ただし,これまでの申請書では最初の部分に研究計画・方法の「概要」を書く部分があり,概要を読むことによってまず研究計画全体を把握することができた.しかし新しい申請書では研究計画・方法の「概要」を書くスペースはカットされている.そこで,指定はされていないのだが,最初の部分に研究計画のサマリーあるいは年度ごとの研究計画のタイムテーブルを書いておくことをお勧めする.そうすると,研究計画の流れが理解しやすいからだ.
またこれまでの申請書と同じく,研究内容を初年度と2年目以降に分けて書くとよいだろう.「うまくいかないときの対応」も,もちろん書いておく方がよい.さらに研究体制と役割分担についても記載し,最後の部分にこの研究によって,どのようなことが明らかになるのか,どのような応用が考えられるのかなど,締めの文章を2〜3行で書いてまとめておくとよい.
以上,「1 研究目的,研究方法など」のページ構成案は図2〜4に示したものでいかがだろうか? (⇒2017.09.08公開予定のその2へ続く)