「速報」では常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を児島先生に随時紹介していただきます.
この速報は,2017.09.05掲載の「(平成30年度公募の要点と申請書の書き方:その1」の続きである.その1と同様に,申請者が多い若手研究と基盤研究(C)のフォーマットを例に,「2 本研究の着想に至った経緯など」をどのように構成していったらいいのか,その案を解説する.なお,その1では「1 研究目的,研究方法など」の書き方の案を示しているので,そちらも参照して欲しい.
「2 本研究の着想に至った経緯など」の部分には,これまでの申請書ではいくつかの部分に分かれていた内容をまとめてここに書くようになっている(図1).
ただし,「(1)本研究の着想に至った経緯,(2)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」に関しては,「1 研究目的,研究方法など」の「(1)本研究の学術的背景」に書く内容とある程度重なってしまう.「背景」には,この研究テーマに関するこれまでの研究経過(そこには国内外の研究動向が含まれるはずだ)と,なぜ申請者がこの研究を行うのか(つまり着想に至った経緯だ)を書かないと,申請する研究計画の意義を示せないからだ.
申請者がなぜこの研究を計画したのか,どのような経緯で研究計画を思いついたのか,その理由を書く.ただし,だれもが書くような,ありきたりな理由ではだめだ.例えば「新しい抗がん剤の開発が臨まれている」「介護現場での環境改善が必要である」など,世間一般に言われているような理由ではいけない.
申請者のこれまでの研究経験から生じたオリジナルな理由を書いて欲しい.研究計画には必ず,申請者にとってのなんらかの個人的な理由があるはずだ.例えば,私の場合,「これまでグレリンというホルモンの研究を行ってきたなかで,なぜオクタン酸の修飾基が受容体の活性化に必要なのかは不明であった.このことを明らかにするためにはグレリン受容体の結晶構造解析が必要であると考え,本研究を着想した」などだ.申請者がなぜこの研究をやりたいのか,その熱い思いをぜひとも書いて欲しい.
この研究テーマに関して,国内外の研究者によって,どのような研究がなされてきたか,それを紹介する.このテーマに関して審査委員になりそうな研究者がいれば,さりげなく(!),その研究を引用しておくのもいいかもしれない.
また「1 研究目的,研究方法など」の「(1)本研究の学術的背景」と重複するが,「本研究の位置づけ」としては,このテーマに関して申請者がこれまで行ってきた研究を紹介しておくのがよい.
ここには,申請者がこれまでどのようなテーマの研究を行ってきたかを書く.特に科研費や民間財団の助成金などによって研究を行ってきたのなら,これらの研究費によって,どのような研究成果をあげてきたかを記載する.発表論文があれば,それを示すこと.また「研究活動を中断していた期間がある場合にはその説明」を書くこと.
なお,「若手研究」では同じ内容を「2 本研究の着想に至った経緯など」とは別に,「3 これまでの研究活動」という項目で,独立して1ページ書くことになっている.そこには大学院などでの研究活動を含めて書く.
準備状況としては,予備的な実験データが出ていれば,それを紹介しておくのがよい.「このように研究が進展している」ので,本研究計画は「実行可能」だとアピールするのに説得力がある.
また研究計画で使用する試料や機器類などがすでに手元にあるなら,そのことを書いておく.試料や機器類がまだ手元にない場合には,その入手計画や方法を書いて「実行可能性」を示すこと.
〔本書:3章-5.今回の研究計画を実施するに当たっての準備状況及び研究成果を社会・国民に発信する方法(P129)参照〕
その他の重要な変更点は,
〔本書:3章-6.研究業績(P132),3章-9.研究経費の妥当性・必要性(P140),3章-11.研究費の応募・受け入れ等の状況・エフォート(P144)参照〕
新しい申請書は,基本的な記載部分では従来のものとそれほど違いはないと感じることだろう.しかし,審査制度の変更によって,基盤研究(B,C)や若手研究では同じ審査委員が2段階で書面審査を行うことになった.そのため,これまで以上に申請書の完成度が重要になるだろう.
〔本書:1章-4.審査のしくみ(P31)参照〕