睡眠外来には大勢の日中の眠気に困っている患者さんが受診されます.患者さんは自分が睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなど睡眠の病気と思って受診されるのですが,実は睡眠不足が問題であることは決して少なくありません.こうした 「(行動誘発性)睡眠不足症候群」 の患者さんには,十分な睡眠時間を確保することを指導するのですが,ほとんどの患者さんから抵抗に合います.確かに自分の眠気の原因は睡眠不足と気づいていれば,まず,自分で睡眠不足を解消するようにするでしょう.自分の眠気は単なる睡眠不足の影響ではなく,専門的な医療が必要な病気と考えて受診したのですから,医師からもっと睡眠時間をとるように言われるだけでは受け入れることができないのは当然です.
「睡眠不足症候群」 の患者さんの訴えには,共感できる面がたくさんあります.やりたいことをするには睡眠時間を減らすしかないし,生活するためには睡眠時間を削るしかないという現実もあるでしょう.「睡眠時間を7~8時間に延長させたこともあるが,眠気に変化はなかった」 といった反論もよく聞きます.それでも睡眠の大切さを理解してもらい,十分な睡眠時間をとるように指導するのが睡眠専門医の役割です.
Belenkyらは4つの睡眠 (臥床) 時間 (9時間,7時間,5時間,3時間) を設定し,これらを7日間継続した場合の刺激に対する反応の結果を報告しています1).この研究によると,睡眠時間を短縮すると,日数の経過に伴って反応のスピードが遅くなりミスが増加していきます.さらに驚くことに,7日間連続して睡眠時間が短いと,3日間連続で8時間睡眠をとっても反応のスピード・精度は元に戻らないのです.つまり,慢性的な睡眠不足のツケを返すのは容易ではなく,たとえ3連休をとって睡眠時間を増やしても完全には回復しません.睡眠時間は節約するべきではなく,睡眠不足の代償は自身が考えるよりも遥かに大きいのです.
小川朝生,谷口充孝/編
定価 3,500円+税, 2013年2月発行
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