アメリカでは11月の第4木曜日に感謝祭(Thanksgiving Day)を祝います.これは一大イベントで,イギリスからアメリカに移り住んだ人たちの最初の収穫を記念するものだそうです.この日には家族が集まり,中に詰め物をした七面鳥(Turkey)の丸焼きを食べるのが一般的です.感謝祭の日に,おなかいっぱい食事をしてソファーで眠る人をTurkey comaといい,七面鳥に含まれる眠気成分のためだといわれていますが,これは本当でしょうか?
七面鳥の肉には,トリプトファンというアミノ酸が大量に含まれていて,これは血液脳関門を通過して脳内に入り,セロトニンの原料になります.そして,セロトニンから松果体でメラトニンが合成され,これが眠気の原因であるといわれています.しかし,実際は七面鳥よりもチキンの方が多くトリプトファンが含まれていて,その他の食べ物,例えばミルクや魚,ゴマや豆類,穀物にもトリプトファンは含まれるため,感謝祭の日の眠気を七面鳥のためと考えるのは無理があります.むしろ,単に感謝祭の日には家族が集まり,マッシュポテトやパイなどの炭水化物もたらふく食べ,お酒も飲んでリラックスするために眠くなるのでしょう.医学の文献で,感謝祭と七面鳥の関係について記載しているものはありません.
ところで,セロトニンからメラトニンをつくるのは,アリールアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼという長ったらしい名前の酵素ですが,この酵素は日光によって活性化し,暗くなると不活化します1).実際に20歳代の学生を対象とした実験で,トリプトファンを多く含む朝食と日中の十分な日光浴が快眠をもたらすことが報告されています2).興味深いことに,この研究で,トリプトファンをあまり含まない朝食にはサラダやオレンジジュース,トリプトファンを多く含む朝食には鮭や納豆という日本の朝食が使われていて,日本の朝食にはトリプトファンを多く摂取できる先人の知恵があったことがわかります.