最近「ポケモンGO」というゲームアプリが日本でもダウンロードできるようになり,町のいたるところでスマートフォンを見ながら歩いている人を見かけます.ポケモンGOで事故が増えているというニュースもありますが,ポケモンは10年前,医学会,特に癌研究において大きな話題になったのです.
2005年に,英国の科学雑誌 Natureに,POK赤血球骨髄球性個体発生因子(POK erythroid myeloid ontogenic factor)という転写抑制因子が発癌において重要な役割を果たすという研究結果が発表され,頭文字をとって「POKEMON」という名前がつけられています1,2).POKEMONは,基本的には発癌の抑制因子なのですが,発癌遺伝子と一緒になると過剰発現して細胞の形質転換を起こし,かえって癌化させることがわかりました.肝臓がんや前立腺がん,膀胱がんや肺がんでも過剰発現していることがわかっていて,これからの癌治療に有効に利用できる可能性があります.
この論文はマスコミの注目もあび,Pokemon’s cancer role revealed(癌におけるポケモンの役割が判明)という見出しで各種雑誌に掲載されました.これを見たポケモンUSAという会社は,ポケモンと癌が関係あるような表現をやめないとNatureを訴える,と警告したそうです3).ポケモンのイメージが悪くなるということですが,科学者は一様にゲームやアニメのキャラクターに悪影響があるはずがないと憤慨しました.
また,この論文が出てからすぐに,キャッチーな名前をつけようとする科学者と,実際に患者さんに面している臨床医の間で,興味深い議論がありました.あるオーストラリアの臨床医が,ユーモアはいいけれど,実際に臨床現場で重い病気と闘っている患者さんのことをもう少し考えろ,という批判を投稿しています4).POKEMON以外にも,slug(なめくじ)やアニメキャラクターのソニック・ヘッジホッグの名前も癌関連遺伝子の名前になっており,何か大きな発見に名前をつけるときには,さまざまな背景を考えたうえで,絶妙のセンスが必要なようですね.