岡山大学病院救急科には「宏道おにいさん」と呼ばれている先生がいて,みんなから恐れられています.どうして恐れられているのかというと,「宏道おにいさん」が当直をすると,重症患者さんがたくさん搬入になり,とても忙しくなるからです.
これは「宏道おにいさん」が救命士に人気があって快く収容するからかもしれませんが,その「宏道おにいさん」が「今日は患者さんが少なくて落ち着いているねえ」と言うと逆に忙しくなるというジンクスがあり,看護師さんから「先生,忙しくなるからそんなこと言わないで!」と叱られています.本当に,そういうつぶやきをすると忙しくなるのでしょうか?このジンクスを岡山大学のお隣の倉敷市にある病院が真剣に調べて論文発表していますので,ご紹介します1).
この病院は岡山県では最も忙しい病院で,救急車は年間1万件以上収容しています.シフトの前に,上級医が「今日は落ち着いた日になるといいねえ」と研修医に発言した群と,普段通りの発言をした群で,研修医の疲労度や患者数,食事時間,ストレスなどを比較しています.結果は,両群に差はなかった,というもので,「“落ち着いた日になるといいねえ”と言うと忙しくなる,というジンクスは証明されなかった.なのでリーダーは安心して思うことを言えばいい」という結論になっています.
似たような検討は,ミシガン大学で「これ以上入院がなければいいのに」と言うと入院が増えたり忙しくなったりするか,について行われていますが,差はありませんでした2).過去には,満月の日や,13日の金曜日には救急患者が増加するか,という検証も行われていますが,当然のことながら普段と差がなかったと報告されています3,4).このような研究が真剣になされているとは,意外と救急医は迷信深いのでしょうね.
昨年の広島カープの優勝の日は,僕は広島で当直をしていましたが,普段は忙しい病院に患者さんが一人も来ませんでした.このように,忙しさや患者さんの数は,曜日や休日,イベントなどの要素も関係するのでしょう.もちろん,これらの検討はすべて平日に行われていることを付け加えておきます.