ポケモンGOは2016年7月にリリースされ,一時社会問題化しましたよね.これは,ポケモンのキャラクターを自ら歩いて集めてまわるゲームで,歩きスマホが問題になってきたのもこれがきっかけです.あれだけ騒がれたポケモン GOもいまやほとんど聞かれません.岡山大学病院にも「院内でポケモンGOは禁止です」という張り紙がなされていますが,そうでなくてもしている人はほとんどいません.
ポケモンGOが医学に及ぼした影響はどうであったか,いくつか論文が発表されています.まず,最も心配なのは,ゲームに集中するあまり注意散漫になって起きる交通事故ですが,日本でポケモンGOが普及してから1カ月の間では,交通事故での死亡は増加しませんでした1).いくつか事故の症例報告はあるものの,概して言えることは,ポケモンGOの出現で歩行者の事故が有意に増加したとの報告はないということです.
一方,アメリカではスマートフォンをもつ18歳から35歳の人を対象に,ポケモンGOインストール前4週間からインストール後6週間までの1日歩数を調べています.インストール前に約5,000歩/日であった者は,インストール後に1,000歩/日増え,その後ゆるやかに減少していって6週間でもとの歩数に戻ったそうです2).似たような研究はいくつかあり,2016年に少なくともアウトドアで過ごす時間と蚊に刺される人が増えたことは間違いないようです3,4).
岡山大学病院では,ポケモンGOによる事故の搬送は今のところありませんが,どういうわけか,溝に落ちて怪我をする患者さんが大変多く搬送されてきます.われわれは,「溝外傷」と呼んでいますが,これはポケモンGOが原因ではなく,酩酊していたり,暗がりで単に足を踏み外したりするためで,かなりの重症外傷であることも少なくありません.当科の若い先生がこの「溝外傷」について研究発表をしてくれましたが,これのおかげで市民への啓発が進み,公共工事が進んだという都市伝説もあります5).どんなことでも,分析して研究して発表するのは大切なことなのです.