以前,血液に関する原稿を出したときに,羊土社の編集部の方から「先生,ところでO型の人は蚊に刺されやすいって聞いたことがあるんですけど,本当なんでしょうか?」と質問してくれました.今回はそれを調べてみました.
メスのハマダラカを20匹入れた箱に,いろんな血液型の被験者の腕を入れて10分間に何カ所刺されたかを検討した研究があります.ご丁寧にも蚊の体内から吸った血液をとり出し,その血液型も確認しており,O型の人は5.045カ所刺されるのに対し,非O型の人は3.503カ所しか刺されませんでした.ハマダラカは,O型を好んで刺す傾向があるようです1).
一方で,蚊が媒介するマラリアという病気がありますが,これについて面白い報告があります.インドのデリーでマラリア患者736人を調べると,その土地の血液型分布とは異なりA型の患者が多い傾向にある反面,O型の患者は少なかったようです2).蚊はO型の人を刺したがるのに,マラリア患者にO型が少ないのはなぜなのでしょう.
ジンバブエで489人のマラリア患者を調べますと,昏睡など重症例はO型には少なく,O型でない患者は重症化する傾向が強いことがわかりました3).同様の報告は2012年にも出され4),O型はどうやらマラリアに抵抗性がありそうです.ABO血液型の分布は,地域,民族により一様ではないのですが,マラリアがはびこる赤道アフリカ,アマゾン川流域,東南アジアなどはO型の血液型の人が多く,マラリアによって非O型の血液型は淘汰されたのではないか,という説も提唱されています.もちろん閉鎖的な社会のなかで,同じ血液型が増えるのかもしれませんが,全員O型という地域もマラリア流行地帯にはあります.
ただし,これらはすべて疫学的な研究であり,一概にO型は蚊に刺されやすくマラリアに抵抗性がある,と結論づけることはできなさそうです.マラリアへの抵抗性に関しては,ヘムを分解する酵素やサラセミア(貧血をきたす遺伝性疾患)との関連を示唆する報告もあります5)が,まだ未解明で今後の研究が待たれます.