春の学会シーズンが近づいてきました.専門医の取得や維持のため,また発表や聴講など自らの研鑽のために学会に出席することは医師として必要なことです.われわれ救命救急センターで働く医師や看護師たちの多くは,日本救急医学会,日本循環器学会,日本集中治療医学会へ出席します.これらの学会期間中には,心肺停止にかかわる医療スタッフが学会に行って病院に少なくなるため,患者さんの予後が悪くなることが予想されますが,実際はどうなのでしょう.
夜間や休日には病院の人手が少なくなるので,平日の日勤帯と比較して患者さんの予後が悪くなることは周知の事実です.フィラデルフィアで2008〜2012年に発生した院外心停止について,朝8時〜夜8時までの日勤帯と,夜8時〜朝8時までの夜勤帯で比較すると,病院前での心拍再開率は両群に差がないにもかかわらず,30日後の生存率は有意に夜勤帯が悪いことが報告されています1).
では,学会中はどうかというと,日本の研究グループが2005〜2012年の8年間のウツタイン様式のデータを集めて分析しているのでご紹介します.先にあげた3つの学会の間に20,143例の心肺停止が発生し,対照となる平時には38,860例の心肺停止が発生しています.この比較対照の平時をどう設定するかが問題なのですが,学会は3日間開催されるとして,前後の週の同じ曜日の3日間を比較対照にしています.これによると,目撃のある心肺停止患者の1カ月後の神経学的予後は,両群で差がないことがわかりました2).同じく,2002〜2011年の10年間,学会中と平時の循環器疾患の予後について調査したアメリカの報告があります.学会中に心不全か心筋梗塞で入院した患者さんは,心臓カテーテル治療や補助循環の装着などの侵襲的な治療を受ける頻度が平時より低くなる傾向にあるけれど,30日後の死亡率はかえって減少するという結果が出ています3).
この種の研究は実は割と多くなされていますが,あまり大きな差はないようで,留守番の体制が整っているのでしょう.いつ急病や事故が起きるかわからず,いつでも同じ高度な診療ができるように準備を整えるのがわれわれ救命救急センターの役目です.いずれにしても,医師の学会参加は,患者さんの予後には影響がないようで安心しました.
私はむしろ,学会中ではなく,学会前後がどうであるかに興味があります.学会前は,その準備で忙しくて予後が悪くなるかもしれないし,反対に学会後は,新しい知見やほかの施設の発表を聞いてモチベーションが上がって予後が良くなるかもしれません.