ライム病(Lyme病)は,マダニによって媒介されるボレリアという細菌による人獣共通の感染症です.アメリカのコネチカット州ライムで原因不明の関節炎が流行し,後に感染症であることがわかったため,この名がついています1).欧米では年間数万人が罹患しているといわれていますが,日本では年間数十例しか報告されておらず,比較的まれな疾患です.感染初期には,目玉のような紅斑と,インフルエンザのような筋肉痛,関節痛,頭痛,発熱,悪寒,倦怠感を呈し,3〜4週間後には症状が全身に広がって不整脈や関節炎,神経症状など多彩な症状が出てきます.
私は過去に1例だけライム病の疑いがある患者さんを診たことがあります.この方は,海外渡航歴があり,不明熱と関節痛を訴えていましたが,明らかな感染源はわかりませんでした.しかし,数週間前に腕に丸い紅斑が出たとのことでしたので,ダニに刺されたかは明らかではありませんでしたが抗菌薬を投与したところ軽快しました.日本ではライム病の確定診断のための検査に手間がかかるため,思いつかないと診断することは困難で,診断されていないライム病患者がいることが予想されます.
さて,このライム病ですが,もう1つライム病と呼ばれる疾患があります .こっちは果実のライム(Lime)のことで,発音は同じですがスペルが違います.ライムには,光に感受性のある(すなわち光によって活性化する)ソラレンという物質が含まれていて,紫外線のUVAが当たることで皮膚にある抗原提示細胞を刺激し,過剰な免疫反応を惹起するなどの強い毒性を示します.ライムが皮膚についたあとに日光を浴びてひどい皮膚炎になる患者さんがおり,こういった植物日光性皮膚炎をライム病と呼ぶのです2,3).カクテルのマルガリータはテキーラをベースにライムジュースなどを混ぜてつくります.また,メキシコ産のコロナビールはライムをビンの中に押し込んで飲みます.このようなライムを使った飲み物が皮膚についた場合にも同様の植物日光性皮膚炎が起き,マルガリータ皮膚炎,メキシカンビール皮膚炎などと呼ばれたりします4).
病気の名前にはセンスのあるものが多いですが,これらも実に優れた疾患名だと思います.