アメリカ海軍の30歳の兵士が,独り言やテレビの前で踊りだす,ライフルにキスするといった異常行動を突然しだしたそうです.軍医の診察を受けたところ,重度のうつ病やPTSDといった精神疾患が疑われました.しかし,その後も,不穏や,周囲に攻撃的になって暴れ,拘束されて鎮静剤を投与されるといったことを起こしていました.そこで,この兵士はもともとアルコール依存で治療歴があったことから,うつ病やPTSDではなくてアルコール摂取か離脱症状が疑われ,後に判明したアルコールの血中濃度は150 mg/dLとアルコール中毒と診断されるほぼ2倍の高値を示していました.もちろんのことですが,軍隊ではアルコールや薬物の使用などは禁じられています.どのようにアルコールを摂取したのか厳しく追及した結果,マウスウォッシュが原因であることがわかりました.周囲の人たちはミントの香りには気づいていましたが,まさかマウスウォッシュを飲むことでアルコール中毒になるとは,軍医も驚いたことでしょう1).
実は,マウスウォッシュには差こそあれアルコールを高濃度に含むものがあり,子どもの急性アルコール中毒の原因として注目すべきとされています2).事実,2歳9カ月の幼児が,約300 mL(18.5%エタノールを含む)のマウスウォッシュを飲んだ後,意識障害で搬送されています.アルコールの血中濃度は306 mg/dLと高値で,胃洗浄や輸液をして回復しました3).日本でも日本小児科学会が出しているInjury ReportのNo.073にマウスウォッシュを飲んで構音障害とふらつきを訴えた2歳の男児の例が紹介されており,決して珍しい話ではありません4).最近はアルコールを含まないマウスウォッシュも多く発売されていますが,容易に購入できる点で意外と盲点だったりします.
ちなみに「マウスウォッシュをして飲酒検問を受けたらどうなるのか?」という素朴な疑問があります.これは,実際に検証されていて,数分以内であれば,呼気中でかなり高い数値が出るようです.いくら説明をしても現場の警察官が許してくれるかどうかはわかりません.