筋肉痛や関節痛に手軽に貼れる湿布薬は,特に日本では大変よく売られています.湿布はパップ剤とも呼ばれ,その語源は「どろどろしたもの」であり,紀元前から皮膚に塗って使われていたようです.日本で湿布薬が医薬品として発売されたのはわりと最近のことです.今のような布状のシートに薬剤を伸ばして付着させる技術は意外と難しく,その開発に数十年を要したからであるといわれています.
湿布で思い出すのが,ある高齢女性の患者さんで,黒い便が出るとのことで来院されました.カルテをみると過去に何度も胃潰瘍からの出血で吐血をくり返していました.その度に上部消化管内視鏡が行われ,難治性の胃潰瘍を指摘されては止血処置をうけ,ピロリ菌の除菌やガストリンの測定までされていたにもかかわらず,症状が軽快しては再発する,ということをくり返していました.
私が診察したときが4回目の吐血で,おなかを触診するためにベッドに横になってもらうときに腰を痛がられたので横向きで診察したところ,背中から腰に7枚の湿布が貼ってありました.その湿布薬は一袋が7枚で,毎日それを貼り替える生活を半年近くしていたそうで,湿布に含まれる薬剤であるNSAIDsが難治性潰瘍の原因と思われました1).湿布のNSAIDsによる腎不全や消化性潰瘍の報告は散見され,湿布も用量が多いと腎不全になって透析をしないといけなくなったり,さまざま重篤な合併症を起こしたりする例もあるようです2,3).
患者さんには,問診の際にサプリメントや嗜好品のことはわりとしっかり聴き取りをするのですが,湿布が抜けていたことを深く反省しました.お薬手帳に書いてある処方薬についての情報は得られやすいのですが,ドラッグストアなどで処方箋がなくても買えるいわゆるOTC薬のことは約半数の患者さんは話してくれない,と報告されています4).しかし,OTC薬であっても湿布薬であっても,薬ですからきっちり用量を守って使うことが大切で,当然副作用もあることを忘れてはいけません.
私の好きなお笑い芸人のミルクボーイのネタで,「湿布は寝てる間にはがれてまうし,効いとんのか効いとらんのかわからんわ」というのがあります.脇役ですが,意外と効いているのだと思います.