新型コロナウイルスの蔓延で,マスクを着けて外出することが一般的になりました.コンプライアンスの問題で容姿の話題をもち出すことははばかられますが,いわゆる「マスク美人」「マスクイケメン」と呼ばれるように,マスクで顔の下半分が隠れることによる周囲に与える印象の変化や感情表現,コミュニケーションについて,多くの研究がなされています.
イギリスのカーディフ大学で,顔の下半分を隠したさまざまな顔を一般人に見せ,その好感度を1〜10で点数をつける実験をしています.いろいろなもので顔を隠していますが,ノートや布マスクで隠したときに比べ,病院で使っている使い捨て医療用マスクで顔を隠したときが最もよい印象を与えたそうです.医療用マスクは安心感を与えるのかもしれません.また,われわれの脳が隠れた顔の部分を想像する際に,勝手に理想的なイメージをつくり出すことが原因ともいわれています1).
同じような研究はアメリカでも行われており,496人の被験者にさまざまな人種の18〜40歳の顔を提示し,マスクなしとありで好感度を評価しています.これによると,マスクなしで「魅力的である」と感じる顔ではマスクによって11%しか好感度が増えなかったのに対し,マスクなしで「魅力的ではない」と感じる顔ではマスクによって71%も好感度が増えたと報告されています2).これらのことから,少なくとも顔の下半分をマスクで隠すことは,より魅力的に見えることが客観的に示されました.念のために言っておくと,これらの研究に使う顔の写真は一般人ではなく,研究用の顔写真のデータベースがあって,それを使っています.
一方,マスクのマイナスの部分も多く報告されています.日本と違って,国によってはマスクを着けることを極端に嫌う場合もあり,マスクに対する否定的な印象,例えば不健康に見えるといった印象が結果を左右することもあると考察されています3).また,怒りや驚きの表情は顔の下半分も関係するため,マスクがあると表情や感情が読みとれず,精神科の診療には大きな影響があるともいわれています4).感染対策のために顔を覆い,距離をおくことでコミュニケーションに支障が出るのはしかたないことかもしれません.はやくマスクを着けなくてもすむようになるとよいですね.