昔ほどではないですが,相撲とプロ野球は日本では長い間,幅広い世代に愛されている人気のスポーツです.この相撲の本場所中やプロ野球の頂点を決める日本シリーズの開催期間中に院外心停止が増加する,という研究結果があります.
相撲の本場所は年に6場所あり1場所は15日間なので年間90日行われていて,この本場所中の90日間と,それ以外の日で院外心停止の件数を比較しています.2005〜2014年の期間に東京都内で発生した71,882人の18〜110歳の院外心停止について調べてみると,相撲の本場所中には院外心停止がだいたい9%増え,75〜110歳に至っては13%増加することがわかりました1).日本シリーズでは,2005〜2014年の10年間に行われた日本シリーズ75日間の院外心停止のデータを分析した論文があります.この期間に47都道府県で66万6千人の心原性院外心停止があり,日本シリーズの期間に13,800人の患者さんが心停止になっていますが,これは日本シリーズではない日と比較するとリスクが3.3%も高いことがわかりました.これは65歳以上の方に多く,特に日本シリーズの放送がはじまる17〜18時の間のリスクは28.7%も上昇することがわかっています2).
実は,スポーツイベントと心停止の関係は世界中で多く研究されていて,アメリカンフットボールやサッカーワールドカップなどでもこの傾向は指摘されています.そのメカニズムについてははっきりわかっていませんが,応援する力士やチーム,選手が必ずしも活躍するとは限らず,さまざまな精神的ストレスがかかることがあるためか,交感神経系が興奮し,心血管イベントが起きやすいためと推測されています.しかし,いかに人気のスポーツでもテレビの視聴率は日本の場合はたかだか20%程度であり,8割の人は観戦していないはずなのでスポーツイベントが心停止に影響しているとは言い切れないのではないかと思われます.それどころか,フランスで行われた1998年のワールドカップの決勝戦では,フランスはジダン選手らの活躍でブラジルを3−0と下して初優勝をしたのですが,決勝戦が行われた7月12日のフランスでの院外心停止は平日よりもむしろ少ないことが証明されました3).
さまざまな推測がなされていますが,スポーツ観戦には暴飲暴食や違法薬物の使用など,ほかの因子もたくさんからむため,スポーツ観戦による興奮のみが心停止に影響したと結論づけるためには,まだ研究が必要かもしれませんね4).