昔から水は一気にたくさん飲めないのに,ビールは飲めるのはなぜか? という議論がされてきました.私が学生の頃には「アルコールは胃から吸収されるから」という説明を聞いた記憶があります.でもビールのアルコール濃度はたかだか5%程度,ビールを1 L飲んだとして,仮にそのアルコール分がすべて胃で吸収されたとしても,たったの50 mLでしかありません.しかも,実際にはアルコールは胃だけでなく小腸でも吸収されますので「アルコールは胃で吸収されるから,ビールはたくさん飲める」という説明はあまり納得できません.
では実際に人は水をどれくらい飲めるのでしょうか? これを検討した研究がシカゴで行われました.18人の健康な男女に1分間に100 mLずつ室温の水を飲んでもらい,満腹でもう飲めなくなるまで続けます.結果は平均1,128 mL,よく飲めた人でも1,500 mL程度でした.また5分間で一気に飲めた量は約650 mLで1 L飲めた人はほとんどいなかったそうです.同じ実験を経管栄養に使う流動食でやると,その量は半分以下に減ることがわかりました1).
そしてビールを健常者に飲ませる研究は,ビールとソーセージの国であるドイツのエッセンで行われています.この研究では,酵母を入れる前と後(発酵前と後)のビール1 Lを被験者に飲ませると,発酵後のビールでは消化管ホルモンであるガストリンが有意に増加し,胃酸の分泌も促進されたそうです2).この現象は発酵前のビールではみられませんでした.ガストリンは,ムスカリンM3受容体を刺激し,胃の上部の運動を抑制する反面,出口付近の幽門部の消化管運動を促進するため,どんどん胃から小腸に送り出す役割があります3).ビールの胃酸分泌効果は明らかで,マレイン酸やコハク酸の関与もわかっており4),これらはワインや日本酒よりもビールに多く含まれるそうです.
ミュンヘンのビール祭りを見たとき,本当に底なしにビールを飲む姿は驚愕の一言でしたが,きっとこの時,胃がガストリンの作用によって活発に運動して大量のビールを小腸へ送り出していたのでしょうね.