腸は第二の脳ともいわれており,腸内細菌と脳・中枢神経機能との関係は最近,さかんに研究が行われています.なかでも,自閉スペクトラム症の子どもたちの多くには,慢性的な腹痛,消化不良,下痢,便秘など,消化器系の問題があることが知られており,これらの症状は注意力や学習能力,または行動に悪影響を及ぼしている可能性があるといわれています.自閉スペクトラム症と腸内細菌の関連は早くから研究されていて,自閉スペクトラム症の患児と健常児の腸内細菌を比較したところ,Clostridium属の菌数が患児で多く,菌種も多いことがわかりました1).
子どもの腸内細菌叢は,胎生期における母親の食事,抗生物質の使用,分娩様式(自然分娩か帝王切開か)によって変化するそうですが,妊娠中に母親が抗菌薬を使用すると自閉スペクトラム症のリスクが高まる,という報告もあります2).ほかにも,母乳栄養は自閉スペクトラム症のリスクを低下させ,患児の胃腸症状を和らげる働きがあるとされています3).
これらの研究は突っ込みどころも多く,結果を腸内細菌の影響だけで説明していることに対して疑問視する声もありました.しかし,最近,健常児の腸内細菌を自閉スペクトラム症の子どもたち18人に移植する試みが行われ,腸内細菌と自閉スペクトラム症の関係性をさらに強くするような結果が報告されました.最初の2〜3週間は腸洗浄や抗菌薬などで元の腸内細菌を消し,その後7〜8週間かけて腸内細菌叢移植を毎日実施し,2年間追跡調査したところ,治療を受けた自閉スペクトラム症の患児は消化器系の症状に改善がみられたほか,患者に特徴的な「社会的ふるまい」にも45%も改善がみられたそうです4).また,治療後,腸内細菌はより多様性を獲得し,自閉スペクトラム症の症状は治療後もゆっくりと改善し,長く続いたそうです.
なかなか治療法がない自閉スペクトラム症ですが,この研究は腸内細菌叢移植が自閉スペクトラム症の長期的な治療において効果的である可能性を示唆しています.