排泄するときの音を他人に聞かれるのは嫌なもので,最近トイレには排泄音を消す装置がついています.一般的には水が流れるような音が出ますが,あの音は排泄音に近い周波数に合わせてあり,排泄音をマスクできるよう調整してあるそうです.単純に大きな音を出せば排泄音がかき消されるわけではなく,咳払いをしてもおならの音が消えないことになります.
最近,この排泄の音を公衆衛生や健康管理に利用しようという研究が進んできています.アメリカのジョージア工科大学のグループは,排泄の音を検知して判断できる人工知能(AI)を開発し,基礎疾患がない人の健康な排便や下痢,あるいは大腸癌患者の下痢などの排泄音を合成し,記憶させました.実際の人間で直接試されたわけではないのですが,排泄音サンプルをランダムにAIに聞かせてみると,AIはそれらの音を98%の精度で識別することに成功しました.
なぜこのような研究が行われたかというと,排泄音からコレラのような致死率が高い感染症の蔓延を早期に発見し,アウトブレイクを防ぐことを目的としています.つまり,AI付きトイレが下痢の流行を教えてくれれば,その地域の感染状況を把握できて,公衆衛生学的に利益があると考えられます.また,将来的には,直腸癌などでは排泄時の音が微妙に変化することを利用し,腸の疾患の診断にも役立つ可能性があるとのことです1).
ほかにも,排尿時の音を検知する装置をスマートウォッチに内蔵し,排尿障害などの評価に役立てようという試みもあります2).被験者の尿が便器内にたまる水に衝突する際に発生する音をスマートウォッチの内臓マイクで記録し,尿流パターンや排尿スピード,排尿時間,排尿量などを評価パラメーターとすることで,前立腺肥大,過活動膀胱,尿失禁,神経因性膀胱などの排尿障害の程度を客観的に示すことができるそうです.センサー備え付けの便器やスマートフォンを使うことも考えられますが,腕時計式のスマートウォッチは男性が片手で小用を足す際に最も適した形態といえるでしょう.
将来は排泄したあとに「あなたは健康です」と評価される時代がくるかもしれず,堂々と大きな音をたてて排泄するのが当たり前になるかもしれません.