アメリカは肥満大国で,体重が重すぎると膝や腰を痛め,そのために動けなくなって運動不足になり,さらに体重が増える,という悪循環に陥り,重篤な健康被害に悩む患者さんも多くおられました.肥満治療の1つに胃の一部を切除する減量手術があります.この手術を受けると体重が減少するだけでなく2型糖尿病なども改善することがわかっており1),日本でも2014年から腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適応になったこともあって,この手術を受ける日本人は増加傾向にあります.
私が留学していたピッツバーグ大学は,胃の大部分を切除し小腸とバイパスをつくる減量手術を積極的に行っていました.ある日,CT検査をする人手が足りないので手伝ってくれとレジデントに頼まれ,一緒に連れて行かれたところはPittsburgh Zooでした.なぜ動物園? と思ったら,減量手術を受ける予定の患者さんが大きすぎて,病院の通常のCTでは検査できず,カバやサイ用のCTを使うためでした.さすがアメリカはスケールが違うと驚いたのを覚えています.
最近,このピッツバーグ大学から,減量手術を受けると,結婚または離婚する確率が一般人の2倍以上になるという興味深い結果が報告されました2).研究では,減量手術を受けた患者1,441人(79%が女性,BMIの中央値はなんと47!)に,術前と術後5年以内の婚姻状況を質問し,その変化を検討しています.術前は,全体の57%(827人)が結婚しており,43%(614人)が独身でした.術後5年間の独身者の結婚率は累積18%でしたが,この数値は米国の一般人の6.9%と比較して2倍以上高い値でした.また,術後5年間の既婚者の離婚率は累積8%であり,この数値もやはり,米国の一般人の3.5%と比較して2倍以上高かったのです.この傾向は,若年かつ術後のBMI低下が大きいほど顕著であったそうです.
減量手術を受けた人は,体重が減るので活動的になり,新たなことにチャレンジしようとする傾向にあります.それまで一緒にいたパートナーは,これまでと違い活動的に生まれ変わったパートナーに置いて行かれたような疎外感を感じることもあるでしょうし,食習慣が劇的に変化するため家庭内での摩擦が増えるのかもしれません.反対に独身者は,自分の身体に対するイメージが改善して自信がつくことで,よりオープンに他者と付き合えるようになると考えられ,それが術後の結婚の増加につながると推測されています.この傾向は,高学歴の患者に特に顕著にみられています.
減量手術は,健康面だけでなく,生活にも大きな変化をもたらし,結婚や離婚など男女関係にも影響を及ぼすことをよく説明しておく必要がありそうです.