私はヘビーメタルが大好きで,長髪のミュージシャンが音楽にあわせて頭を振るヘッドバンギングは実に格好よく,憧れたものです.しかし,首を激しく振る動作は頭頸部傷害のリスクともいわれており,赤ちゃんを激しく揺さぶることによって起こる乳幼児揺さぶられ症候群という疾患概念もありますし,あまり身体にいいこととは思えません.
シドニーの研究グループは,ヘッドバンギングによる軽度の外傷性脳傷害および頸部傷害のリスクを評価するために,実際のヘビメタのライブ会場でヘッドバンギングしている人を観察し,その観察から生体力学的な解析を行って,頭部傷害と頸部傷害を計算する理論モデルを構築しました1).彼らにヘビメタとバラードのようなスローな曲を聞いてもらい,さまざまな条件で試したところ,ヘビメタを聞いた時のヘッドバンギングのテンポの平均値は146回/分であったそうです.これは1秒に2回以上であり,かなり速いと思います.そして,130回/分を超えると頭頸部傷害のリスクが上がることがわかりました.また,146回/分のスビードでヘッドバンギングをした場合,首を振る角度が45度を超えると頭頸部傷害のリスクが格段に高くなり,75度以上になると軽度の脳傷害が発生する可能性があり,105度以上になると頸部傷害のリスクがさらに高まることが予想されました.事実,Lancet誌にはヘビメタのライブのあとに硬膜下血腫を発症した中年男性の例が報告されています2).ヘッドバンギングによる傷害を最小限にするには ① 首振りの角度を小さくする,② ヘビメタの代わりにテンポの遅い曲を聴く,③ 1ビートごとではなく2ビートに1回にする,④ 保護具を装着する,などの対策をとるべきであるとシドニーの研究グループは提唱しています.保護具をつけてライブに行って,ゆっくりと小さく首を振るなど,ヘビメタファンには耐えられないでしょう.
X-JAPANのYOSHIKIさんが,頸椎椎間板ヘルニアでネックカラーをされていた時期を思い出しました.実はクラッシックの指揮者でも同じような傷害が報告されており,何もヘビメタだけが悪いわけではないのです3).