羊土社では,初めて科研費を申請する研究者,慣れていない研究者へ向けて,科研費の概要・応募戦略の立て方・申請書の書き方などを解説した単行本『科研費獲得の方法とコツ』(現在は第7版)を刊行しています.
ここでは,常に変更している科研費の制度に関して,本書の内容から更新された情報を,著者の児島将康先生に「速報」として随時紹介していただきます.ぜひ定期的にチェックしてください.
令和4年度の科研費の公募時期・締切時期が早まったことはすでに知っていることと思う(2021.4.21掲載の速報参照).基盤研究(B, C)や若手研究などに先んじて,7月1日に早くも公募が開始された基盤研究(S, A)では,これまでの公募と異なった部分がいくつか明らかになった.
一番影響の大きな変更は申請書の様式に関するもので,基盤研究(S, A)では,「1 研究目的,研究方法など」の中に「2 本研究の着想に至った経緯など」が組み込まれたことだ.つまり,これまで2つの欄に分けて書いていた内容を,「1 研究目的,研究方法など」に1つにまとめて,次の5つのポイントで記載することになった.
令和4年度基盤研究(S)の申請書より引用.
今回の改訂では,これまでの申請書と比べて記載する内容に変更はなく,記載欄と記載順の変更だけなので,比較的対応しやすいと思う.基盤研究(B, C)と若手研究の申請書様式はまだ公開されていないが,基盤研究(S, A)から推測すると,基盤研究(B)では「1研究目的,研究方法など」が5ページ,基盤研究(C)と若手研究では「1研究目的,研究方法など」が4ページになるものと思われる.
ここを見ている人の多くが基盤研究(B, C)と若手研究に応募するだろうから,ここでは基盤研究(C)の「1研究目的,研究方法など」が4ページになると想定して,どのような構成で全体のスペース配分を行っていけばよいか,その1つとして以下のような形を提案しよう(図).
ずっと以前の申請書では「研究目的」が2ページ,「研究計画・方法」が2ページだったが,それとほぼ同じような構成だ.各項目を具体的にどのように書くのかは拙著「科研費獲得の方法とコツ 第7版」を参照してほしい.
なお以上の内容は7月1日に公開された基盤研究(S, A)の記載内容の変更をもとに,基盤研究(B, C)と若手研究に当てはめたもので,実際の申請書ではない.基盤研究(B, C)と若手研究に応募する人は,8月上旬公開予定のこれらの種目の申請書を必ず確認すること.
申請書以外の変更点としては,挑戦的研究(萌芽)の審査方式が「2段階書面審査」で行われることになった.これまでは第1段階の書面審査と第2段階の合議審査の「総合審査」によって採択が決定されていた.より申請書の内容が重要になった変更といえよう.
「研究インテグリティ」とは聞き慣れない言葉だが,「インテグリティ」(integrity)とは誠実,真摯,高潔などの概念を意味する言葉である.統合イノベーション戦略推進会議において「研究インテグリティは,研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクに対して新たに確保が求められる,研究の健全性・公正性を意味する」と定義されている.これは「研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスク」に対応するために,研究費の重複受給の確認の他に,海外への情報流出や技術流出に該当しそうな案件(研究)がないかを確認することが目的である.
すなわち,研究活動の透明性を確保するために,
文部科学省公表資料より引用.
が求められるようになった.研究においてもいろいろと難しい世の中になったものだ.