慢性腰痛

レジデントノート2023年9月号 掲載

日常診療でよく出合う場面で漢方薬を選ぶ際の考え方,使い分けを解説します.本連載では利便性のため本文でツムラの製品番号を併記しています.生薬は黄下線,漢方薬は緑下線で示します.

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はじめに

今回は慢性疼痛に対する漢方治療をとり上げてみたいと思います.研修医の方が研修する場として機会は少ないかもしれませんが,特に一般外来で頻度の高いものは腰痛です.慢性疼痛だと発赤・熱感を伴うような炎症性疼痛に出会うことは少なく,しびれを伴うような神経障害性疼痛の方が多いでしょう.腰痛の原因で特異的な治療が必要となるものに,悪性腫瘍・感染症・炎症・骨折などがあげられるものの,器質的疾患はめったにみつかりません.例えばプライマリ・ケアにおける脊椎悪性腫瘍の有病率は0〜0.66%ときわめて低いことが報告されています1).しかしながら,患者さんとしては「疼痛がある」というだけでなく,生活が制限されQALY〔quality adjusted life years,質調整生存年(生存の質と量をかけあわせた指標)〕低下の要因となるため,世界的にも腰痛にどのように対応していくかはさかんに議論されていますし,日本で実感される以上に補完代替医療の存在感がある領域です.

では早速考えてみましょう.

70歳代男性,60歳代から続いている労作時の腰痛を主訴に来院した.整形外科の画像検査では軽度の腰椎の変性を指摘されているものの,神経痛や脱力はなく,鎮痛薬の内服・外用で適宜経過を見るように言われている.健診は毎年受診しており,高血圧以外に異常を指摘されておらず,体重減少もない.先日の新聞広告で,「腰痛や頻尿によく効く漢方薬」があるというのを見たので,試しに漢方外来を受診してみた.

急性・慢性の腰痛症は頻度が多く,社会生活への影響も大きい症状です.患者さんは診断のために画像検査を希望しますが2),画像検査を行っても治療方針に影響が少なく,加えて画像検査には偽陽性が多く3),患者さん本人に病者としての役割を確定することで画像検査を行った場合に休職期間が延長する可能性があるとすら報告されています4)

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