生体リズムのなかで,よく知られているのはサーカディアンリズムです.サーカディアンはラテン語で「およそ1日」の意味で,日本語では「概日リズム」と訳され,1日のなかで早朝に低く夕方に高くなる体温リズム,メラトニンなどの生体ホルモン分泌リズムや睡眠―覚醒リズムなどがサーカディアンリズムです.その他,生体リズムには数十分から数時間の周期をもつウルトラディアンリズムと呼ばれるリズムがあり,睡眠中にもみられます.
睡眠のウルトラディアンリズム(睡眠周期)のサイクルは約90分で,ノンレム睡眠が60~80分にわたって出現し,その後,レム睡眠が10~30分ほど続いて1つの睡眠周期が終了し,この90分の睡眠周期が4~5回くり返されて6~8時間という1晩の睡眠となります.なお,90分のウルトラディアンリズムは覚醒時にもみられ,講義に集中できるのは90分くらいで,それ以上は集中しにくいのも,ウルトラディアンリズムが影響していると考えてよいでしょう.
それでは睡眠時間を90分単位にすると目覚めがいいのかを考えてみましょう.起きて目覚めがいいのは睡眠周期の終了時期にあたるレム睡眠の後半です.これから考えると睡眠時間を睡眠周期に合わせて90分の倍数でちょうど起きるようにすれば目覚めがいいはずです.しかしながら,周期には個人差があり,また,レム睡眠の出現時期はウルトラディアンリズムだけでなく,サーカディアンリズム,睡眠不足,飲酒などさまざまな要因が関連してしまうので,なかなかこの理論通りにはいきません.特にレム睡眠はサーカディアンリズムが強く影響し,例えば普段より遅い時刻に就寝すると,入眠直後には出現しないはずのレム睡眠に入ってしまう場合もあり,こうなるとたちまち90分単位から外れてしまいます.つまり,睡眠時間を90分単位にしても目覚めがいいとは言えないのです.起きるのが辛いと,すっきり目覚める裏ワザがあればと考えますが,残念ながら,毎日,十分な睡眠時間を確保し規則正しい時刻に起きる習慣をつけるしかないのです.
小川朝生,谷口充孝/編
定価 3,500円+税, 2013年2月発行
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