日中,身体を動かしたあとはよく眠れるので,運動は不眠症の対策にも応用されていますが,激しい運動をすればもっとよく眠れるものでしょうか.あるいは精神活動を活発に行ったあともやはりよく眠れるものでしょうか.それは活動の内容や質ももちろんありますが,どの時間帯に活動を行ったかによります1,2).
私たちの身体は,日中活動し夜間は眠りにつくという,24時間の睡眠覚醒リズムに基づいて動いています.その背景には,睡眠覚醒のリズムだけではなく,深部体温リズムや,メラトニンホルモンリズムなど,およそ24時間のリズムで推移する生体現象の存在があります.深部体温は起床前から上昇し夕方近くにピークを迎え,徐々に低下し明け方には最低値をとりまた徐々に上昇し,そして私たちは気持ちよく目覚めるわけです.ですから,疲れていなくとも夜,床につくと自然にヒトは眠りにつくものです.ところが,夜間に深部体温が下がらない,あるいは交感神経系が活発に活動するようになりますと,眠気が襲ってきません.就寝1時間前に中等度の運動をして計測した,直腸温や交感神経活動 (心拍変動),心拍数を安静時や就寝3時間前に運動を終了した場合と比較した実験があります.この実験では,就寝直前まで運動していた場合には安静時に較べて直腸温の低下は少なく,また3時間前に終了した場合と異なり,眠ってからの交感神経活動はあまり低下しませんでした2).つまり,身体は疲れているのに眠れないということが起こってきます.また,夜寝る直前に熱いお風呂に入りますと眠れなくなることがあります.これも体温のリズムと関係があると考えられます.夜間に活発な精神活動を行う,例えばコンピュータゲームなどを就寝直前まで行うと交感神経活動を高め,寝つきが悪くなり睡眠の質を変化させる3)ことも報告されています.
深部体温が夜間下がらないような活動 (スポーツなど),就床前の熱いお風呂への入浴,夜間明るい光の中で過ごすといった交感神経活動を高めるような夜間の活動などは,いずれも眠りにつくのを妨げると考えられます.
小川朝生,谷口充孝/編
定価 3,500円+税, 2013年2月発行
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