アレルギーは救急外来では大変頻繁にお目にかかる大切な病態です.詳細な病歴の聴取が必要であることはいうまでもありません.先日,納豆アレルギーのある旅行中の患者さんを診察する機会があり,その患者さんは冷麺を食べて全身の蕁麻疹を発症し,救急車で受診されました.日本に特徴的な納豆アレルギーは,頻度こそ少ないですがなかなかやっかいで,いったん発症すると呼吸困難や全身の皮疹など比較的重症化するので注意が必要です.
通常,食物アレルギーは比較的早く症状が出てきますが,納豆アレルギーは食物アレルギーには珍しく,接触から半日ほどで症状が出る「遅発性」の経過をたどります.そのため,原因となる食品がわかりにくく,何回もアナフィラキシーをくり返す傾向があります.これは,アレルギーの原因である納豆のねばねば成分,ポリガンマグルタミン酸の分子が非常に大きく,消化に時間がかかるためのようです1).
ところで,なぜ納豆アレルギーの患者さんが,冷麺を食べてアナフィラキシーを起こしたのでしょうか? それは,冷麺に入っていたくらげの触手にも納豆と同じポリガンマグルタミン酸が含まれているため,それが原因となった可能性があります2).このことをヒントに,横浜市立大学の猪又直子先生が,納豆アレルギーの患者さんを調べたところ,約8割の患者さんがマリンスポーツなど,海に長時間いる習慣があることがわかりました.彼らは,海でくらげにくり返し触れることでポリガンマグルタミン酸に感作されてしまい,それが原因で納豆アレルギーを起こしたのです.食物アレルギーは,抗原が経皮的に体内に入って発症することも多くあります.一見全く無関係な納豆とマリンスポーツが結びつく興味深い病態といえます.