救命救急センターには,不幸にも交通事故に遭ってしまった方も多く運ばれて来ますが,いまだに飲酒や酒気帯び運転が原因となっていることも少なくありません.飲酒検問のときには,アルコール検知器が使われますが,全くアルコールを飲んでいないのに呼気からアルコールが検出される病気があります.
この疾患は,1972年に日本で発見されたと報告されていて,今は「自動醸造症候群(Auto-Brewery Syndrome)」と呼ばれています.極端な食事制限や抗菌薬の使用で腸内細菌のバランスがくずれることにより,腸管内に出芽酵母(イースト菌)が増加し,酵母が糖をアルコールに変換することが原因です.結果的に,食事をするだけで腸内でビールが醸造され酔っぱらってしまうのです1).
アメリカのテキサス州に住む61歳の男性の例が報告されていて,彼はアルコールを飲んでいないのに,酩酊のような意識障害をきたして救急外来に運ばれました.妻も病院の医師も,彼のことをCloset Drinker(要するにたんすの中で酒を飲むという意味で,キッチンドリンカーと同じ意味)と思っていたようで,アメリカの飲酒運転の法的上限は0.08%であるにもかかわらず,彼の呼気からは0.33〜0.40のアルコールが検出されたのです.
しかし,彼は日曜日の礼拝後にも酩酊するといったエピソードがありました.そこで入院させて何も携帯品を持ち込ませず,病院の一室に24時間隔離して医師が血中アルコール濃度を調べたところ,食後に濃度は0.12%にまで達しました.食事には添加物にわずかにアルコールが含まれていただけでした.便を調べたところSaccharomyces cerevisiaeというイースト菌が検出され,炭水化物の発酵が腸の中で起きていることがわかったのです2).短腸症候群の小児でも同様の報告があります3).
ちなみに,エルシニアなどが原因の感染症では,アンモニアがつくられることがあり,尿路感染などで意識障害が出た場合には,高アンモニア血症を考えておくことも必要です.