脳神経内科

基本の3 本柱にこだわろう

滋賀健介(Kensuke Shiga)パナソニック健康保険組合 松下記念病院 脳神経内科

2024年4月号掲載

初期研修医の1 日のスケジュール

金曜日
8:30 ~病棟回診
9:00 ~初診外来・外来陪席
12:00 ~昼食休憩(45 分)
15:00 ~神経放射線カンファレンス
15:30 ~外来症例の振り返り
17:00業務終了

「型」の段階ではとにかくくり返し,身体に刷り込む必要がある.くり返して身体化させることしか,無意識にできるようにする方法はないからだ

(為末 大「熟達論」)

脳神経内科はこんな科です

脳神経内科の基本は「問診」「神経診察」「臨床推論」の3本柱です.入院患者主体か,外来もさせてもらえるかなど,研修環境によって多少変わりますが,この3つにこだわることで,どの病院の脳神経内科ローテも魅力的なものになります.

このうち,診察から病変推定に至る推論プロセスが特に重要です.多くの研修医にとって脳神経内科のハードルが高い理由の1つは,推論過程において(学生時代に学んでいるはずだが忘れている)神経解剖学と神経生理学の知識がそれなりに必要とされる点ではないでしょうか? しかし逆に言うと,解剖学・生理学の基礎知識を丁寧に復習しながら,患者さんの神経所見の臨床的意義を考えるように自ら習慣づければ,学びや気づきの多い脳神経内科研修になるはずです.

脳神経内科研修で心がけてほしいこと

1病歴のとりかた

脳神経内科では,「発症様式」によって病態を推測します.そのため,患者さんの言葉を,診察者のバイアスが入りこまないよう,丁寧に聞き出す技術が要求されます.例えば,患者さんが「『突然』頭痛がしました」と訴えた場合,① 何時何分発症と言えるくらい『突然』なのか,② 発症時刻までは特定できないものの「ある日『突然』」という意味なのか,③ 「人生のなかで『突然』」というニュアンスで日にちまでは特定できないものなのか,を明確にする必要があります.このような場合,例えば「頭痛を自覚したとき何をしていましたか?」という問いが有効です.「朝食を終え,皿を流し台に運んでいる途中」であれば『突然発症』であり,脳血管障害を疑います.「朝食時は何ともなかったが,午前中から昼食時にかけて」であれば『急性発症』と考えられ,炎症性疾患が想定されます.症状に気づいた時点からピーク(あるいは受診時)までの経過を,図1のように正確に図示できるくらい聞き出せていれば,研修医としては合格です.

問診のしかたを学ぶには,外来研修が最も適しています.研修医がファーストタッチで初診患者を診察した後,指導医が診察し,その場に研修医が同席して指導医の診察を観察します.そうすると,研修医は,自分が聞きもらした情報やとりもらした所見を身に染みて理解できるものです.実経験から得た問診・診察技術は,教科書から得られるものと違い,諸君の印象に残り,忘れがたいものとなります.指導医の診察を「観る」というプロセスを,研修のあちこちに組み込んでください.きっと1カ月後の諸君の診療能力は格段に上達していることでしょう.

図1●発症様式と想定される病態生理

2神経診察との向き合いかた

初診時や入院時はもちろんですが,担当患者さんの神経所見は(部分的でよいので)毎日とってください.神経診察という「型」を身につけるには,愚直にくり返すことが大切です.ある日は腱反射が出せたのに次の日には出せないという場合,諸君らがまだ安定して腱反射が出せていないということを意味しているのかもしれません.また,回診時に指導医の診察所見が研修医諸君の所見と異なった場合,その場で診察のコツを指導医に尋ねてみることをおすすめします.所見の不一致はフィードバックを受ける絶好のタイミングであり,この学びのタイミングを逃さないことで,諸君の診察能力は成長していきます.

さらに,診察した神経所見は,必ず毎日診療録に記載することをくり返してください.現在の研修医諸君は,医学生時代にOSCEで診察手技を学ぶ機会があり,神経診察のしかたについては一通り学んでいますが,自分がとった神経所見について(正常であれ異常であれ)診療録にどのように記載するのかまで学んでいないことがほとんどです.自分なりに所見を記載した後,指導医のカルテ記載と突き合わせ,少しずつでよいので正しい記載方法を身につけてください.

3神経解剖について大雑把でよいので理解する

脳神経内科で扱う臓器は,脳・脊髄・末梢神経・筋の4つですが,脳神経内科の「難しさ」(「面白さ」でもありますが)は,ある神経症候がどこの病変でも生じうるという点にあります.例えば,「左下肢脱力」という症状は,右前頭葉傍正中部病変(脳)でも,左胸髄病変(脊髄)でも,左腰仙部神経根病変(末梢神経)でも,三好型筋ジストロフィー(筋)でも生じます.病変部位を推定するためには,神経解剖学の知識(長索路や末梢神経の走行部位)をもとに,筋トーヌスや筋萎縮・腱反射などが各病変部位でどのように変化するかという神経生理学の知識を,円滑に利用できる必要があります.研修医レベルで詳細な神経解剖まで熟知している必要はありませんが,患者さんの症状が「脳」「脊髄」「末梢神経」「筋」のうちどこで生じているのか,くらいは推測できるようになってください.正しく推測できないと,次のステップで行う検査(脳MRI,脊髄MRI,神経伝導検査,針筋電図,脳波など)を適切に選べないからです.

4打腱器を買っておく(オプション)

ほとんどの研修医は,病棟や外来に置いてある打腱器を借りて,必要時に使用し,使い終わるともとに返却しています.しかし,自分の打腱器を持っている方が,思いついたときに腱反射をとれるし,手技も上達するものです.ですから,ローテーション開始前に,打腱器を購入し白衣に忍ばせておくことをおすすめします.指導医にしても,研修医が打腱器をわざわざ購入して持ち歩いていることを知ると「今度の研修医はやる気がある」と思いこみがちで,指導医のモチベーションを上げる効果も期待できます.

高価なものを購入する必要はありませんが,ハンマー部分にある程度重みがある打腱器をおすすめします.先が軽い三角形型のもの(テイラー式)はハンマー部分が軽いため,叩いたときの腱へのインパクトが弱くて反射が出にくく,初心者にはおすすめしません(図2).

図2●打腱器の種類

学びが深まるおすすめの書籍

問診については「問診力で逃さない神経症状」(医学書院,2019)「神経症状の診かた・考えかた 第3版」(医学書院,2023),診察については「神経診察クローズアップ 第3版」(メジカルビュー社,2020)「レジデントのための神経診療」(医学書院,2023)「神経症候学を学ぶ人のために」(医学書院,1994),臨床推論については「神経内科ケース・スタディー 病変部位決定の仕方」(新興医学出版社,2000)などがおすすめです.また,症状と照らして神経解剖を理解するには「臨床のための神経解剖学」(中外医学社,1992)がとても参考になります.

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