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10万人以上が活用してきた科研費応募のバイブル,2017-’18対応の最新版!今版では,新たな審査区分,審査方式,申請書の様式を丁寧に解説.応募戦略,申請書の書き方,採択・不採択後の対応など,ノウハウを大公開!
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「挑戦的研究の採択はとても難しく,そして申請書はとても書きにくい.」
挑戦的研究(開拓・萌芽)は,他の種目の改革よりも1年早く平成29年の募集から審査のしくみや申請書の様式が新しくなった(従来は挑戦的萌芽研究という名前だった).その採択結果だが,予想されたように採択率はかなり低く,挑戦的研究(開拓)で8.4%,挑戦的研究(萌芽)で10.9%であった.そして平成30年度の公募でも,実は申請書の様式が少し変わっている.
そのため,ここでは挑戦的研究のうち,平成30年度公募の挑戦的研究(萌芽)を例に,どのように申請書を仕上げていけばいいのか,その要点をまとめていこう.
挑戦的研究(萌芽)の申請書だが,実は平成30年の募集でも申請書の様式がさらに新しくなった.ただし大枠は変わらず,中心となるのは最初の5ページで,2ページの概要と3ページの本文である.より重要なのが2ページの概要部分で,挑戦的研究への応募者が多数の場合(おそらく今後も多いだろう),ここでプレスクリーニングが行われ30%くらいに絞り込まれる.その後に3ページの本文をもとにした本審査が行われ,採択課題が決定される.つまり,少なくともプレスクリーニングに使われる概要2ページの内容で,上位30%以内に入る必要がある.
また,挑戦的研究の審査は65の中区分で行われる.例えば,私がよく応募する「内分泌学」は,中区分においては「生体情報内科学およびその関連分野」として「血液および腫瘍内科学関連」「膠原病およびアレルギー内科学関連」「感染症内科学関連」「代謝および内分泌学関連」を含んでいる.場合によっては内分泌関連以外の研究者も審査に加わるかもしれない.そのため,申請書の内容はより広い研究分野の審査委員を対象としてわかりやすく書いていかなければならない.
さて,概要部分は2ページで,本文は3ページ.ようするに3ページの内容を2ページにまとめるということだ.これはとても難しい.しかも書くべき内容はどちらも「1 研究目的及び研究方法,応募者の研究遂行能力」と「2 挑戦的研究としての意義」である.
本文では「1 研究目的及び研究方法,応募者の研究遂行能力」には,「①本研究の目的,②その研究目的を達成するための研究方法,③応募者の研究遂行能力」を2ページで書く.「2 挑戦的研究としての意義」には,「①これまでの研究活動を踏まえ,この研究構想に至った背景と経緯,②学術の現状を踏まえ,本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか,探索的性質の強い,あるいは芽生え期の研究計画である場合には挑戦的研究としての可能性を有するか」を1ページで書く.そしてこの3ページ分の本文の内容を,概要では2ページにまとめる.
この概要部分の2ページと,本文の3ページを,どのように書いていったらいいのだろうか?以下に1つの案を示す.
1.概要では,研究目的(背景や問題点)を充実させる.
2.本文では,研究計画・方法を充実させる.
3.概要には図を多用する.
ようするに,全部で5ページのものを書くつもりで,概要では研究目的に比重を置いて,本文では研究計画を重視して書くのはどうだろうか? 概要部分はプレスクリーニングに使われるのだから,まずは研究の意義を審査委員に十分に理解してもらわないといけない.そこで概要部分では研究目的を重視して書く.
概要の2ページの案として,1ページ目に研究目的をしっかりと書いて,2ページ目に研究計画,申請者の研究遂行能力,挑戦的研究の意義を書く.本文3ページでは,研究目的を半ページ以内,その後に1ページと1/3ページを研究計画,残りの部分を研究遂行能力の説明にあてる.
書くのが最も難しいのが「2 挑戦的研究としての意義」である.申請書のこの欄には「これまでの学術の体系や方向を大きく変革,転換させる潜在性を有する挑戦的研究」とあり,留意事項には「(萌芽)については,探索的性質の強い,あるいは芽生え期の研究計画も対象」とある.これが難しい.
まず「これまでの学術の体系や方向を大きく変革,転換させる潜在性を有する」研究だが,はっきりいってそんな研究がいつもあるわけがない.「学術の体系」の変革や転換を起こす研究がそんなにしばしばあるのなら,研究者は苦労しない.また自分の経験からも,研究をやっている途中ではわからないのだが,研究が進んではじめてその意義というか,重要性がわかるということがある.多くの研究では,その未来の意義は予測できないのだ.そうかといっても,ここには何かを書かないといけない.次のような内容はどうだろうか?
1.異分野の研究を融合させるもの.異分野からの手法や概念を別の分野にもち込む研究.つまり異分野への挑戦だ.
また挑戦的研究(萌芽)においては,「(萌芽)については,探索的性質の強い,あるいは芽生え期の研究計画も対象」なのだから,
2.異分野の研究を融合させるもの何か新しいものを探す研究.例えば想定されている新しいタンパク質性の因子などを探す研究
3.どうなるのか先の結果が予想できない研究
と考えてもやはり何を書くべきか難しい.「これまでに行われていない研究だから」という書き方では不十分.どの研究もこれまで行われていない研究なのは当然だからである.このようなときは,「この研究がこれまでに行われていないのはなぜか?」その理由を書くといい.実現を阻む難しい点は何なのか,その理由を書くとこの研究がなぜ挑戦的研究にふさわしいのかが理解してもらいやすい.そしてどのような手段や方法でこの問題点を解決するのか,解明のためにどのようにチャレンジ(挑戦)をするのか書けばいい.
さて,挑戦的研究でも,他の種目でもそうだが,採択のための評価において重要なことは「実現可能かどうか」である.いくら挑戦的研究であっても,全く実現できる可能性のないもの,可能性の低いものは審査委員の評価も高くない.審査委員にとっては,研究目的の斬新さももちろんだが,「本当にできるのか?」というのが重要な判断基準だ.
その実現可能性をどうやって示せばいいのか? 申請者がただ「できます」と書くだけではだめだということはわかるだろう.申請者がこの研究計画を実行できるという,何かしっかりとした証拠や裏付けが必要だ.それはどのようにすればいいのだろうか?
1つの方法は,これまでの研究成果やマスターしている研究テクニックを申請書にきちんと書いて,実現可能性をアピールすることだ.たとえ挑戦的研究の申請書には業績欄がなくても,これまでの論文発表や学会発表を本文中で示して,実績をアピールする必要がある.なおいいのは,予備的な実験や調査のデータを示すことだ.「現在,この研究テーマに関してすでに研究を進めていて,次のような興味深い実験データを得ている」と,実験データとともに示すことができれば,このテーマの実現可能性を大いにアピールできるだろう.
最後にもう一度くり返しておきたいのは,挑戦的研究の採択はとても難しく,そして申請書はとても書きにくいということ.その高いハードルを考えてもチャレンジする価値のある研究テーマならば,ぜひとも挑戦的研究へ応募してみよう.