本連載が大幅加筆して単行本『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』になりました!
グローバルな活躍をめざす研究者にとって,プレゼンテーションは自分をPRする絶好のチャンスです.一口にプレゼンテーションといっても,口頭発表だけではありません.論文や研究発表のアブストラクト,CV,e-mailなど様々な場面で,自分自身,そして自らの研究について伝え『コミュニケーション』する必要があります.
このウェブ連載では,研究者が直面する英語での自己表現の第一歩となるライティングによるコミュニケーションを中心に,コミュニケーションへの臨み方,頻度の高い英語表現,スキルアップ法を解説していきます!
英語の論文はなんとか読めるのだけども、学会会場で全然英語で会話ができないという悩みをよく耳にします。私も米国に留学する前はまったく同じ悩みをもっていました。英語の論文は何本か書いていましたし、専門誌に掲載された英語の論文は辞書なしに読み、内容を理解することに問題を感じていませんでした。しかし、口頭での英語のコミュニケーションにはまったく自信が持てませんでした。街で外人に道を聞かれても困るなと内心では感じていました。そこで、NHK英会話のテキストを買い込み、毎日月曜日から金曜日まで15分間仕事や実験の終わったあとラジオを聴いていましたし、1時間のマンツーマンの英会話教室に週1回2年間通いました。しかし、米国での国際学会に行くと、学会会場に到着する前に、まず空港やホテルの様々な場面で、NHKラジオ英会話と英会話教室のレッスンで培ったはずの私の英語コミュニケーション力がほとんど役に立たなかった経験を何度も繰り返しました。
英語の論文はある程度読めるのに、口頭での英語コミュニケーション力があまり向上しないのはどうしてでしょう。それは英語の論文を読む力と、英語を使って口頭でコミュニケーションできる能力とは全くべつの種類の能力であるからです。ざっくり言えば英語の論文を読む能力は現代国語の授業でよい成績を取る能力、口頭で英語のコミュニケーションをする能力は体育の授業で良い成績を取る能力のようなものです。国語の成績のよいひとが、体育の成績がわるいことなんてよくあることでしょう。また、体育の成績を上げるために、いくら国語の勉強時間を増やしても全く効果はありません。
口頭で英語のコミュニケーションとは双方向性の人間同士のぶつかり合いなのです。コミュニケーションはお互いに相手の話していることを文字通り全部聞き取って進めているわけではありません。お互いに、全身を使って相手にメッセージを伝えるために自分をコミュニケーションの舞台に投企し、同時に五感を使って相手が伝えようとするメッセージを探り合っているのです。まさに体育の授業でテニスの練習をしているみたいでしょう。本を“読んでも”、ラジオ英会話を“聴いても”、また自分でテープレコーダーに向かって“話して”も、あまり効果的ではないのです。コミュニケーションとは同時性・双方向性・即興性を要求するものであり、。本にも、ラジオ英会話にも、テープレコーダーにも同時性・双方向性・即興性がありません。コミュニケーション能力の向上には、コミュニケーションを実践するしかないのです。
プロフィール
Photo: Liza Green (Harvard Focus)